短艇模型スペシャル No.5「八八艦隊系軽巡洋艦の短艇: 内火艇篇」 – 1/700で天龍型軽巡をつくる: 14

短艇模型スペシャル No.5「八八艦隊系軽巡洋艦の短艇: 内火艇篇」

今回は、軽巡用短艇パーツ各社比較の後編、9m、10m、11m内火艇について。

日本の巡洋艦の中でも大所帯の5,500級ファミリーが装備しているので、アフターパーツにも恵まれているだろう、と思いきや、さにあらず


前回調べたとおり、開戦前後の「天龍型」姉妹は内火艇の装備状況に差異があり、「天龍」が9m型と11m型を各1艘、「龍田」が9m型と10m型を各1艘搭載していたと思われる。
以下、各型毎に、市販の内火艇パーツを比較していこう。

まずは恒例の、おことわりから。

例によって、これでもかと云う位に長い商品名称対策で、以下、静岡模型教材協同組合の「ウォーターライン 大型艦兵装セット」を「WL大型艦兵装セット」、ピットロードのE品番の「WW-II 日本海軍艦船装備セット」を「PT旧装備品セット」、NE品番の「新 WW-II 日本海軍艦船装備セット」を「PT新装備品セット」とそれぞれ略記する。

今回も、カッターの際と同様、森恒英氏の「日本の巡洋艦」の内火艇の側面図[1] と、各書籍から寄せ集めた、公式図面の複写または模写の平面図[2] [3] を基に、比較をしてみた。

各社9m内火艇の比較

WL大型艦兵装セットとピットロードの旧装備品セットの9m内火艇比較
質感あるモールドのピットロードを取るか、
形状把握の的確なウォーターラインシリーズを取るか。

PT旧装備品セットII
品番: E-5 / 定価: 1,080円 (税込)
基本的な寸法は正確だが、側面形・平面形とも形状把握がイマイチであまり似ていない印象。
モールドはやや誇張気味だが、バランス良く施されている。
WL大型艦兵装セット
品番: 517 / 定価: 972円 (税込)
横幅が僅かに細いが、寸法・形状ともに正確
今日的には全般にモールドがあっさり気味で、特に、後部キャビンのキャンバストップが直線的で、金属外鈑のように見えるのが難

「天龍型」や5,500t級の各種軽巡の他、駆逐艦「秋月型」などにも積まれている結構メジャーな内火艇の筈だが、意外にアフターパーツに恵まれていない。
いずれも、90年代半ばの、アフターパーツとしては古参世代にあたるもの。

上記のとおり、両者相互に長所と短所を分け合っており、決め手を欠くのが悩ましい。
総合的にはややWL大型艦兵装セットの方が勝っているかと思うが、キャンバス張り表現は何とかしたいところ。

WL大型艦兵装セットの、9m内火艇をディテールアップ モールドを追加すると、ウォーターライン兵装セットは化ける。

今回は、形状が正確なWL大型艦兵装セットをベースに、伸ばしランナーやプラ材などでディテールを足していった。

問題のキャビン部分は、角を丸めた上からエッチングメッシュとマスキングテープを貼り重ね、布の皺と弛みを再現した……が、甲板中央部を覆ってしまったので殆ど判らない ()
「天龍型」の内火艇はどの写真を見ても、甲板中央部を丸ごとキャンバスで覆っており[4]、どうもこのスタイルでの運用が基本のようである。

それ、先に気付いてれば、旧PTにキャンバス掛けて基本形状を誤魔化せたのに!!

船体部分はプラストライプで舵を追加するとともに、スクリュー軸を伸ばしランナーで自作した。スクリューの羽根は、良い方法が思いつかなかったので省略。

各社11m内火艇の比較

WL大型艦兵装セットと、ピットロードの新旧装備品セットの11m内火艇比較
やはりここでも、WL大型艦兵装セットのデッサンの秀逸さが際立っている。

PT旧装備品セットIII
品番: E-3 / 定価: 1,080円 (税込)
全体に細身で鋭角的なアレンジ。
操舵室回りなどは、同社後発品より似ており、ディテールもまずまずの出来
WL大型艦兵装セット
品番: 517 / 定価: 972円 (税込)
9m型同様、横幅が僅かに細いが、寸法・形状ともに正確で、特に側面形が秀逸。架台が一体成型されている。
全般にモールドがあっさり気味で、特に、後部キャビンのキャンバス部が直線的で、布らしくないのが難
PT旧装備品セットVII
品番: E-12 / 定価: 1,080円 (税込)
今回の比較では、船体平面は最も似ており、やや大げさながらキャンバス表現も良い感じ
船首側面がややとがり気味で、操舵室の幅が広いのが惜しい
PT新装備品セットII
品番: NE-02 / 定価: 2,180円 (税込)
カッター同様、舵まで再現されているなど、ディテールは秀逸
だが、平面形が痩せており、甲板の傾斜が再現されていないなど、形状把握に難

駆逐艦編では総合的に品質の高かった新PTだが、何故か11m内火艇については、同社の旧版よりも似ていない
旧PTの2種とWL大型艦兵装セットは、それぞれに持ち味があり、どこに重きを置くかで使い分けられよう。

  • ディテールアップに自信がある、もしくは、細密なディテール再現が不要なら、WL大型艦兵装セットがおすすめ。
  • 操舵室回りを自作か、キャンバスで隠してしまうなら、旧PTのVIIが最適、操舵室以外は形状・ディテールとも優秀。
  • できるだけ手間を掛けずに済ませたいなら、多少細身なのに目を瞑れば旧PTのIIIは形状把握・ディテールともそこそこの出来でバランスが良い。

今回は、前掲の写真のとおり、9m型と表現を揃える意図もあってWL大型艦兵装セットを基にディテールアップを施した。

謎の10m内火艇

「龍田」の装備した10m内火艇だが、マイナーな存在らしく、図面はおろか、他の艦が装備している写真も見つけられなかった。
仕方ないので、11m型の後部キャビンを切り詰めて、10m相当の長さにしてお茶を濁した。
幸か不幸か、「龍田」の写真ですら詳細が判らないので、ツッコミも入るまい ()

WL大型艦兵装セットの11m内火艇を元に、10m内火艇を作製
資料皆無ゆえ、11m型を切り詰めてキャンバスを掛けただけ! お手軽!!

ダビット関係

前回述べたとおり、「天龍型」は後継の5,500t級と異なり、駆逐艦同様のラフィング型ダビットを装備している。
以前に比較したように、ラフィング型ダビットについてはナノ・ドレッドが圧倒的に優れているので、今回もそれを使用。
最前列の通船用ダビットは、他のダビットに比べて1/700換算で0.5~0.7mm程度背が低いので、足元を切り詰めて取り付けた。

また、「天龍」の右舷後部内火艇ダビットは、重巡などによく見られる、外舷に基部がつく形式のラジアル型を装備[5] している。
これは、ナノ・ドレッドのラジアル型ダビットが形状・寸法ともドンピシャである。

ラフィング型ダビットのクライブバンドは、紙製ラベルシールの細切りを使用。

ラジアル型ダビットは、短艇が甲板繋止の際は懸架用のロープ先端が艇ではなくダビットの柱に繋いである
ので、0.2mm銅線で再現してみた。

「天龍」右舷後部のラジアル型ダビット 丸めた銅線を貼っただけだけど、意外にソレっぽいでしょ?


さて、今回の内火艇篇だが、意外なことに、カッターや通船で実力を見せた新PTが振るわず、静協のWL大型艦兵装セットが基本設計の優秀さを見せつけた。

個人的には、WL大型艦兵装セットは大味な機銃の印象が強く、あまり良いイメージがなかったのだが、パーツによっては最新キットに引けを取らぬ優れた設計であることが判ったのが収穫だった。


参考書籍

  • 森 恒英「駆逐艦が搭載した艦載艇」『軍艦メカニズム図鑑 – 日本の駆逐艦』グランプリ出版、1995年、278-281頁 ^1
  • 「軽巡『多摩』」『日本巡洋艦史 世界の艦船 1991年9月号増刊』海人社、1991年、146頁 ^2
  • 日本造船学会「一等巡洋艦 妙高 一般艤装図」『明治百年史叢書242 昭和造船史別冊 日本海軍艦艇図面集』原書房、1975年、57頁 ^3

参考ウェブサイト

すべて敬称略。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です