さて、前回、イタレリのキットを作ろう、と云うところまで決めたので、今回からいよいよ製作……ではなく、例によって調べものから始まる (笑)
飛行機の場合、事前にマーキングと機体の形式を特定しておかねば、仕上げ段階で実はサブタイプが違ってて……と地獄を見る、と云う場合がままあるので。私だけ?
と云う訳で、機体の形式や仕様の確定。
今回はB型が最も輝いていた1940年の西部戦線の参加機から選ぶことにした。
準拠資料は以下の通り。
- 参加部隊の一覧:「オスプレイ軍用機シリーズ 22 ユンカース Ju87 シュトゥーカ 1937‐1941 急降下爆撃航空団の戦歴」[1] (以下、「オスプレイ本」)
- 胴体側面識別記号の文字列と配色ルール:「ドイツ空軍塗装大全」[2] (以下、「塗装大全」)
- 各部隊の隊章:「世界の傑作機 No. 11 ユンカース Ju 87 スツーカ」[3] (以下、「世傑11」)
上記を基に、写真から装備機を判別したのが以下の表である。
機体写真の確認できる、1940年のフランス戦に参加したJu 87部隊一覧
所属 | 識別色 | 隊章 | 識別文字 | 装備機 |
---|---|---|---|---|
1./StG2 | 白 | 白丸に黒犬 | T6+■L | B-1前期型 |
3./StG2 | 黄 | 黄丸に盾形と黒い鳥 | T6+■L | B-1前期型 |
4./StG2 | 白 | 白菱形に緑のクローバー | T6+■M | B-2前期型 B-2後期型? |
5./StG2 | 赤 | 白縁つきの走る黒ペンギン | T6+■N | B-1後期型 |
6./StG2 | 赤 | 無し? | T6+■P | B-1前期型 |
8./StG2 | 赤 | 白縁青盾形に白い複十字 (III./Stg2共通) | T6+■S | B-1前期型 |
7./StG51 | 白 | 黄色い流星 | 6G+■R | B-1前期型 |
9./StG51 | 黄 | 水色盾形に黒い爆弾へ跨り松明を掲げる赤鬼 | 6G+■T | B-1前期型 |
1./StG77 | 白 | 白段だら縞の黄盾形にピンクの豚 | S2+■H | B-1前期型 B-1後期型 |
4./StG77 | 白 | 赤段だら縞の黄盾形に黒鶏 | S2+■M | B-2後期型 |
5./StG77 | 赤 | 赤段だら縞の黄盾形に黒豹 (黒猫?) | S2+■N | B-1前期型 B-1後期型 |
6./StG77 | 黄 | 赤段だら縞の黄盾形に黒牛 | S2+■P | B-1前期型、 B-1後期型?、 B-2前期型? |
10./LG1 | 白 | 水色盾形に白い爆弾へ跨り槍を構える赤鬼 | L1+■U | B-1前期型 |
各部隊の隊章は以下の通り。
なお、世傑11にこれら以外のイラスト図版[4] もある。
ただ、出典不明で実在が確認できなかったものもある為、写真で確定できたもののみの紹介にとどめる。
架空のものも含め、動物モチーフが多い。
識別文字と識別色について
この時期のドイツ空軍機は中隊および航空団・飛行隊の各本部小隊毎に統一ルールによる識別色を割り当てられている。
航空団本部 | 暗青 RLM 24? |
---|---|
飛行隊本部 | 明緑 RLM 25? |
飛行隊内で1番目 (第1、4、7、10) の中隊 | 白 RLM 21 |
飛行隊内で2番目 (第2、5、8、11) の中隊 | 赤 RLM 23 |
飛行隊内で3番目 (第3、6、9、12) の中隊 | 黄 RLM 04 または RLM 27 |
各中隊の白、赤、黄については「塗装大全」に出典と共に示されている[5] ので間違いないが、各本部機については「オスプレイ本」掲載の塗装図からの推定[6] [7] である。
ハーケンクロイツは1941年頃からやや前に移動し、動翼に掛からない描き方が主流になる。
また、胴体側面の識別文字は左2桁が航空団、3桁目が中隊内機番、4桁目が中隊もしくは航空団・飛行隊本部を表しており、表内の「+」はバルケンクロイツの位置。
3桁目の中隊内機番はアルファベットが割り当てられており、1940年頃のJu 87の場合、この識別記号3桁目とスピナーの一部が前述の識別色で塗られている。[8]
ただし、部隊内である程度のアレンジは認められていたようで、5./StG51の様に黒文字に識別色の赤を縁取りとしている例[9] や、Stab II./StG77の様に識別記号4桁総てを識別色の緑としている例[10] もある。
Ju 87 Bのサブタイプ毎の違い
Ju 87 Bは、形式番号を持つB-0、B-1、B-2の3種の内、B-1、B-2で生産時期による変化がみられる。
本稿では「世界の傑作機 No. 152 ユンカース Ju 87 スツーカ」の記述に倣い、前期型・後期型と記す。
形式番号 | 時期 | プロペラ | 排気管 | ラジエター カウル | 主輪カバー |
---|---|---|---|---|---|
B-0 | – | 細身のVS 5 | 横向きの楕円形 | 小型で後端にフラップ | 後ろ寄り |
B-1 | 前期型 | 細身のVS 5 | 横向きの楕円形 | 小型の一体式 | 後ろ寄り |
後期型 | 細身のVS 5 | 推力型 | 小型の一体式 | 後ろ寄り | |
B-2 | 前期型 | 細身のVS 5 | 推力型 | 大型で後端にフラップ | 前寄り |
後期型 | 根元が幅広のVS 11 | 推力型 | 大型で後端にフラップ | 前寄り |
細かく見ていくともっとありそうだが、外形で目立つ識別点は排気管とプロペラ。
ラジエターカウルは翼に隠れたり影になっていることが多く、主輪カバーは真横から見ると明らかにB-2が前寄りだが、斜めからだと判別が難しい。
また、B-2の前後期の区別は飛行状態だとお手上げである。
後期になるに従い、アゴ、脚、プロペラとメリハリの利いた形状になり、力強い印象になる。
B型の生産がB-1からB-2に移行したのは1939年12月で[11] 、電撃戦初期の写真は圧倒的にB-1前期型が多い。
フランス戦~バトル・オブ・ブリテン辺りからB-1後期型とB-2前期型が見られるようになるが、B-2後期型が確認できるのは主にバトル・オブ・ブリテン以降の写真で、恐らくB-2後期型は電撃戦には参加していないものと思われる。
ただ、4./StG77だけはフランス戦~バトル・オブ・ブリテンの時期とされる複数のB-2後期型の写真がある[12] 。
上記の識別点が写っていない写真でも、製造番号からある程度の推測は可能である。
私の確認できた限りでは、B-1後期型の最も若い番号がWNr. 5174[13] で、最大の番号がWNr. 5523[14] 、
B-2後期型の最も若い番号は WNr. 5659[15] だった。
従って、WNr. 5174~5523の範囲内ならB-1後期型、WNr. 5659以降ならB-2後期型と云うのはほぼ固いと思う。
また、B-1、B-2とも前期型でWNr. を特定できる写真は見つけられなかった。
前回比較した、イタレリとフジミのキットはいずれもB-2後期型をモデライズしており、電撃戦の主力であったB-1前期型とするには意外と相違点が多い。
フジミ版はボーナスパーツとしてB-1前期型用の排気管が用意されている。ただ、抜き方向には問題ない筈だが何故か排気口が開いておらず、そのまま使うにはやや厳しい。
製作機体を確定する
さて、やっと機体の確定に入れる (笑)
できれば、形式と機番が明確に紐づけられる機体にしたいのだが同中隊で3機分ともなると意外に少なく、上記で特定できたのは4./StG77、5./StG77、6./StG77の3隊だけ。
4./StG77は、機番の確認できるS2+FM、S2+IM、S2+JMの3機全てプロペラ形状からB-2後期型と特定できる[16]。
5./StG77で機番の確認できるのは、S2+EN、S2+UN、S2+DNの3機で、S2+ENは排気管形状からB-1前期型[17] 確定。
S2+UNの写真は識別点が写っていないのだが、尾翼にWNr. 5167の記載[18] が確認でき、前述のB-1後期型の番号帯に極めて近く、それの可能性が高い。
S2+DNは排気管と主脚からB-1後期型確定だが、1941年の写真[19] しか現存していない。
ただ、B-1後期型なら1939年製なので、フランス戦の時期には配備されていたものと推測。
6./StG77で機番が確認できるのは、S2+AP、S2+BP、S2+CP、S2+EP、S2+MPの5機。[20] S2+MPを除く4機は排気管形状からB-1前期型が確定。
S2+MPは推力式排気管+VS 5プロペラなのでB-1後期型かB-2前期型だが、1940年8月の時点で隊章が無いのでバトル・オブ・ブリテン後の補充まもない機体の可能性が高い。
StG77の部隊章のシステムについて
「世傑11」の隊章一覧[21] を見ると、StG77はシステマティックにマーキングを施しており、前部胴体両側の盾形の徽章の配色で各飛行隊の所属が識別できる。
具体的には、黄色い盾形の上端の段だら縞が下記の色に統一されている。
写真は6./StG77。別アングルの写真から、恐らく1941年以降の東部戦線での撮影と思われる。
- I./StG77配下: 白
- II./StG77配下: 赤
- III./StG7配下: 青
で、今回の候補は総てII./StG77所属のため、いずれも黄色地に赤の段だら縞となる。
また、前述の通り、各隊の識別色は下記の通りで、中隊内機番を示す3文字目と、スピナー先端もしくは中ほどに識別色を用いている。
- 4./StG77: 白
- 5./StG77: 赤
- 6./StG77: 黄
立体物としてのまとまりを考えた場合、使う色数は抑えた方が綺麗にまとまるので、II./StG77各隊の部隊章の基調となっている黄色もしくは赤と馴染みの良い、5./StG77もしくは、6./StG77が候補となる。
6./StG77は、配備時期の怪しいS2+MPを除くと全てB-1前期型になってしまい面白みに欠けるし、横向き排気管を3機分作るのはすごく大変そう (1機あたり12本の楕円パイプの作製だ!) なので、今回は5./StG77の3機にしようと思う。
と云った訳で、飛行機でもやはり調べもの回から始まるのである。
WWIIの単発爆撃機では知名度・人気ともトップクラスだと思うのだが、やはり戦闘機に比べると人気の差は歴然のようで、意外に日本語で読める資料が少ない。
特に、WNr. の特定なんかは海外のフォーラムや文献を当たればもう少し掘り進められそうな気がするのだが、如何せん、グーグル翻訳以上のツールが無いので、図表はともかく、文章の解読は困難なのが現状である。
参考書籍
- ジョン・ウィール『オスプレイ軍用機シリーズ 22 ユンカース Ju87 シュトゥーカ 1937‐1941 急降下爆撃航空団の戦歴』大日本絵画、2002年、95-96頁 ^1、57頁 ^6、59頁 ^7 ^10、58頁 ^9、89頁 ^18
- ミヒャエル・ウルマン『ドイツ空軍塗装大全』大日本絵画、2008年、130-131頁 ^2 ^5 ^8
- 『世界の傑作機 No. 11 ユンカース Ju 87 スツーカ』文林堂、1988年、9頁 ^3 ^4 ^21、22頁 ^11、および、掲載写真全般
- 『世界の傑作機 No. 152 ユンカース Ju 87 スツーカ』文林堂、2013年、39頁 ^13、および、掲載写真全般