キットの解釈を活かしつつ、トップヘビーなシルエットを補正する – 続・1/700で天龍型軽巡をつくる: 6

今回は艦橋の工作。「天龍型」の形状面では、最も解釈が分かれるであろう部分である。

スクラッチ版と全く同じではつまらないので、キットの基本形状を維持しつつも、全体の重心バランスを大幅に変えてみた。


艦橋と前檣は、細身の解釈

ハセガワの新キットは、極力実物の写真のバランスに忠実でありつつ、解釈に揺れが生じる要素は細身寄りな解釈をしている。
具体的には艦橋の幅が狭めな解釈をする一方で、前檣は上に行くほど大きめに解釈している。

私が以前スクラッチした時は、逆に三脚なども開き気味にして末広がりなアレンジをしていた。
これは私は後継の「球磨」が好きなので、そのバランスに寄せていたのだが、ハセガワの設計氏的には「天龍型」のキャラクター性は不安定で線の細い部分にあるとみて、そこを強調したかったのではないかと思う。

ハセガワ「天龍型」とスクラッチ版の前檣比較 同じ写真をもとにしている筈だが、ここまでバランス解釈に差が出る。

ここを全くスクラッチ版と同じ解釈にしても面白くないので、キットのアプローチを活かしつつ、もう少し安定感のあるところに着地させようと思う。

布団のようなマントレットを再現する

と云う訳で、艦橋の基本的なバランスは弄らず、ディテールの追加のみ。窓枠はエッチング+伸ばしランナー化しており、形状の根拠については連載第1回、「天龍」と「龍田」の作り分けについての記事を参照されたい。
また、1942年仕様ならば、以前解説した羅針艦橋のマントレットは欠かせない。

「天龍」の艦橋?: 1942年(昭和17年) 6月 「一億人の昭和史」に駆逐艦として紹介されていた、1942年の「天龍」。[1]

御覧の通り、内部に鋼管もしくは竹を通した、布団のようなモコモコとした形状。なので、工作上も構造を踏襲してプラ棒の芯にマスキングテープを巻き、瞬着で固めてからパテで形を微調整している。
「龍田」にマントレットが装備されていたかは定かではないが、同時期の迷彩なども2隻セットで訓令されており、しかも「天龍」よりも艦橋の背が高く目立つので装着していた可能性は高いのではないかと思う。

「天龍」の艦橋マントレット軟らかいものの表現は苦手だ……。もう少し似せたかった。

また、マントレットの装着により羅針艦橋部のボリュームが増し、キットの基本形状を維持しつつも冒頭に述べた安定感あるシルエットを出すのも狙い。

1/700の人々

羅針艦橋背面の旗旈甲板は、そのままだと断面が目立つので側面にキャンバスを張って厚みを誤魔化す。 また、側面に張り出す見張り台上の双眼鏡の位置が先の写真から判るので、0.3mmプラ棒で追加。

また、今回は1/700の人の再現に挑戦してみた。
当初はエデュアルドのエッチング水兵を加工していたのだが、どうもポーズを付けているうちに折損してしまったり、接着の位置決めに難儀したりで早々に断念。

では、いつものプラ材工作でできるのではないかと思って試したら、案の定、プラ自作の方が楽だった。
エッチング水兵をゲージに頭以外をエバーグリーンの0.25mmプラ板から切り出し、色とポーズを付け甲板に接着する。夏服なので、服はMr. カラーの311番、手足はリノリウム用に調合したブラウンに塗る。
甲板に固着したら、頭をつけて完成。頭は0.3mm長に切ったプラストラクトの0.3mmプラ棒。

プラ材による水兵の自作一旦自作の要領を掴むと、フィギュアに演技を付けるのは中々楽しい。

私は塗膜で丸まってしまうので気にならなかったが、断面の角ばりが気になる人は、プラ用セメントを全体に塗布してエッジを溶かしてやると良い。

今回は、艦橋の中がエッチングで、露天甲板にいるのがプラ製の人。途中からプラ製に切り替えたので混成部隊だ。

三脚楼は、トップヘビー感をやや弱めに

前述のとおり、キットの解釈はトップヘビー寄りで、写真でもそう見えなくもないのだが、トップ檣の横桁が船体幅より長いのには違和感を覚える。

「天龍」の前檣 中々決め手になる写真は無いのだが、比較的形が捉えやすいのはこのあたりの写真か。

もしかしたら、そんなフネは珍しくないのかもしれないが、少なくとも「天龍型」のバランスではあまり美しくないと思ったので、三脚部のバランスは維持しつつ、トップ檣は全体に小型化して新造した。

また、比較的歪みの少ない正横の写真から前檣の高さを割り出し、それに対して横桁の比率を上のような正面に近い写真から求めると、やはりキットほどは幅広にならず、そのバランスで作ったのがスクラッチ版。

キットの場合、縦横比自体はスクラッチ版と大して変わらないのだが、全高自体も高めに解釈しているので、横にも長いのだ。

今回は、スクラッチ版より三脚のシルエットが細いので、スクラッチの時よりも更に横桁を短めに採っている。
このあたり、上の3枚の写真だけでもわりと比率がまちまちなので、解釈の幅は広い。

以前検証したように、1942年の改正後も前檣短縮はされていないとみているので横桁の構成は開戦時のままだが、上記理由にてキットのトップ檣全高27mmに対し20.5mmと、3割弱短縮。いつものようにトップ檣主柱は0.5mm真鍮線を電動ドリルに咥えさせて、テーパーをつけている。

横桁はスクラッチ版では0.3mmプラ棒だったが、0.2mm真鍮線が手に入ったので、より細くしてみた。横桁の長さは上から7.5mm、11.5mm、15mmである。

ハセガワ「天龍型」とスクラッチ版の前檣比較 正面形では、主にトップ檣と短艇取付位置が、シルエットに与える影響が大きい。

クロスツリーもトップ檣同様、全体的に大きめなので、一回り小型化しつつ、それぞれの中心線にノコでスジボリを入れて、二枚板感を出す。

クロスツリーの工作実物は2枚の三角板の貼り合わせ。

三脚上段の見張り所は、実物が大抵窓にキャンバスが掛かっているので、キットの窓部分の上にマスキングテープを貼り、それらしく皺を作る。
後面の開口部の厚さが目立つので、薄く削るのを忘れないように。

改修前後を横から比べると、以下の通り。

「龍田」の艦橋マントレットバランス面以外では、羅針艦橋下の開口部はキャンバスで塞がれている事が多いので、プラ板の下地にマスキングテープを貼って再現した。

側面形では、主にマントレットによってシルエットを変えている。また、トップ檣や窓枠は素材そのものをシャープにすることでより軽めに感じられるのが判るだろう。


スケールモデルはともすれば図面や写真に忠実であること、それのみが評価されがちだが、数値だけでなくイメージやキャラクター性に基いたアレンジもまた重要と思う。

前檣のバランスひとつでも、ウソ臭くならない範囲でこれくらい解釈の振り幅はあり、そうしたイメージを投影する作業の楽しさもまた、スケールモデルの醍醐味であろう。


参考書籍

  • 「特集 艦艇の軍事機密」『一億人の昭和史 [10] 不許可写真史』毎日新聞社、1977年、144頁 ^1

全て敬称略。

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