前回は牛、今回は金魚、何故か生物ネタが続くが、特に狙った訳では無い。
仮組したウィーゴの顔を眺めていたら、突然、国芳の「金魚づくし」が脳裏をよぎった、ただそれだけなのだ。
今回もターンエーウィーゴにひき続き、秋葉原工作室のウィーゴ製作会で作ったもので、自分用ルールは前回と同じく、「本体を切った貼ったしない」「『戦闘用』は禁じ手」のふたつ。
金魚づくし
左が「さらいとんび」で、右が「玉や玉や」。「金魚づくし」に出てくる金魚はみな茶目っ気があり、そしてどことなく抜けている感じが愛らしい。[1]
「金魚づくし」とは、幕末の浮世絵師・歌川国芳の連作で、彼の得意とした擬人化ものの1シリーズである。その名の通り、金魚を擬人化しており、彼らの目つきがウィーゴのそれに見えたのだ。
「金魚づくし」は版画であるため、色調はまちまちで、色合いについては厳密な再現を目指さず、適当な近似色でバランスを取る。ただ、白だけは納得のゆく色合いのものがなかったため、前回のターンエーウィーゴのアイボリーホワイトを流用した。
赤 | 6.25R 4/10 | GSIクレオス Mr. カラー C114 RLM23レッド |
---|---|---|
薄赤 | 7.5R 7/6 | GSIクレオスMr. カラー C112 キャラクターフレッシュ (2) |
白 | 5Y 9/1 | グリーンマックス 鉄道カラー 37 白3号 + GSIクレオス Mr. カラー C21 ミドルストーン |
水色 | 10BG 5/6 | グリーンマックス鉄道カラー 06 青22号 |
配色パターンは基本的に元画の模様を当てはめている。
手足については「鰭っぽさ」を出すため一部に元画の背景色である水色を配し、金魚色の部分だけを見た時に、単純な棒状の手足よりは頼りなさそうに感じられるバランスを目指した。
また、尻周りも中央の四角い箱を「尾鰭」に見立て、その周囲を水色としている。
実物の金魚からしてそうなのだが、腹側よりも背側の模様に面白みがある。ウィーゴ自体は、各部の断面を薄く削り込んだ以外は素組。
金魚売り
さて、単体では完成したが、前回情景仕立てにしているので何か物足りない。
そこで、このカラーリングは金魚屋の看板代わり、と云う設定にして、金魚を売らせることにした。金魚売りィーゴ、である。
明治時代の着色写真。背後の壁に天秤棒を立てかけている。[2]
昭和中期の金魚売り。桶は水槽となり、天秤棒はリヤカーに。[3]
私の中での金魚売りのイメージは、江戸明治あたりの大きな木桶に天秤棒だったのだが、その後、時代が下るにつれ、桶は中身が見える金魚鉢やガラス水槽となり、天秤棒から自転車やリヤカーへと輸送力を増していったらしい。
ではそれをどうやってウィーゴに絡めるか?
自転車やリヤカーにくらべた時のウィーゴの利点は、背の高さと自由な両手、ならば、リヤカーでしか運べないサイズの水槽を天秤棒スタイルで担ぐと、ウィーゴならでは、ではないか。
全体のシルエットは江戸の金魚売り、シルエットを維持したまま、構成要素をスケールアップする。うん、これだ。
国芳の金魚づくし×金魚売り、の謎コラボ。
イメージは固まったが、1/35の金魚売りなどガレキですら存在しない。水槽と、中身の金魚の再現が課題である。
1/35ではないものの、1/25で金魚売の屋台のプラモ、と云うのが存在しているので、これをなんとか使えないかと思ったのだが、如何せん半世紀くらい昔の代物の様で、造形も時代なり。とても使えそうにない。
薄々そうなるだろうとは思っていたが、全自作である。
まず水槽。ウィキペディアによると、こうした魚用の水槽には「規格水槽」と呼ばれるもの[4]があり、ペットショップや観賞魚店の展示に使われているのは主にこれ。
寸法がいくつかあり、ウィーゴとのバランスが取りやすそうなのは、中型と通称される60cm×30cm×36cmの「60cm規格水槽」だ。
1/35では、約17mm×9mm×10mmとなり、ここは特に悩むことなく透明プラ板を箱組。
問題は中身の金魚と水の表現だ。
金魚の世界では、体調2~3cmを「小型」、4~6cmを「中型」、6cm以上を「大型」と区分する[5]らしい。1/35では小型が1mm未満、中型が1~2mm、大型が2mm以上。
中型以下は忠実に再現しても砂粒並で面白みを欠くのは必定、自ずと大型を再現する他ない。
体型的に記号化しやすいのは「琉金」。「和金」だと1/35では鯉の稚魚と云われても判らない。
まずは、加工しやすいスーパースカルピーを試してみたが、意外と体の厚みを抑えるのが難しく挫折。
厚みが0.5mmを切る辺りから、千切れやすくなり、細かな整形が難しかった。
次に、プラ材の切り出し。エバーグリーンの0.25mm×1mmプラ棒から切り出してみると、切削性が良いので意外と細かい鰭も綺麗に抜ける。ただ、正面や真上から見ると真っ平らなので、尾鰭などを適当にひねってポーズを付けて疑似的に立体感を出した。
体型的に記号化しやすいのは「琉金」。「和金」だと1/35では鯉の稚魚と云われても判らない。
色はクレオスの原色オレンジとミッドナイトブルー。白い部分はプラのまま。
ちなみに、金魚のオレンジ色は慣習的に「赤」と呼び、特に全身オレンジ一色の個体は「素赤」と云う。また、オレンジ×白の場合は「更紗」と云うので、塗装パターンを探すときはそれで検索してみると良い。以上、金魚豆知識。
赤 | 10R 6/12 | GSIクレオスMr. カラー C59 オレンジ (橙) |
---|---|---|
白 | N 9 | プラ地肌のまま |
黒 | N 2 | GSIクレオスMr. カラー C71 ミッドナイトブルー |
さて、金魚は何とか形になった。これを水槽内に浮かせるのが、最大の難関。
模型仲間からフィギュアの瓶詰ディスプレイに使われる吸水ポリマーが良いのでは? と薦められたのだが、実際に試してみるとこのサイズでは刻んだポリマーでも水槽の隅まで綺麗に行き渡らせるのが難しく、微妙な隙間が目立つ。また、中で金魚の向きを調節しても体長3mmでは軽すぎて、吸水時の圧力に負けて金魚があらぬ方法を向いてしまう。
このサイズでは無理があったようだ。
透明レジンも考えたが、0.2mmプラ板では硬化熱に耐えられそうにないので没。
最終的には、木工ボンドで水槽内壁の各面に点付けし、各面毎の視差で色んな位置に泳いでいるように見せかける、と云う、だまし絵のような方法に至った。
完璧、とはいかぬまでも、少し離れれば違和感はなく、まあ及第点か。
冒頭の水槽部分のアップ。意識してみると、各面に金魚が接着されているのがお判りいただけるだろうか?
右手の金魚鉢は、途中で触れた1/25キットの物。豪快な左右割なので、合わせ目に沿って糸を回して接着し、一見、吊り紐のように見せかけている。
鉢を吊る紐と、天秤棒と水槽を縛る紐は、それっぽい色のボタン付け糸を使用。できれば瞬間接着剤を使って毛羽立ちを抑えたかったが、透明部分の曇りが怖かったので断念。
作品全景。全体に暖色系だけど、涼しげて良いでしょ? (作ったの春先だけど)
と云う訳で、ウィーゴ2作目は、思い付きからどんどんアイデアが転がり、思いがけない姿で完成した。前回の牛もそうだったが、ウィーゴは小道具を作るのにどうしても細部が気になり、作る度に妙な知識が増えてゆくなあ (笑)
参考ウェブサイト
- 「歌川国芳の『金魚づくし』 9作品」『ネット美術館「アートまとめん」』、2016年8月閲覧^1
- 「生類との暮らし」『美しき日本の面影』、2016年8月閲覧^2
- 「(時どき街まち) 1967年 台東区竜泉 リヤカーで金魚売り: 朝日新聞デジタル」、2016年5月^3
- 「水槽 – Wikipedia 」、2016年8月閲覧^4
- 「金魚の水槽の大きさ」『金魚のことなら【金魚屋の息子】』、2016年8月閲覧^5
全て敬称略。
こんにちは由良之助です。秋葉原のネジ屋と電子部品商に用があったので足を延ばしてウィーゴも拝見してきました。
国芳とウィーゴをつなげるというのは上質な連想ゲーム的発想で、私は大好きです。発想を的確に立体化出来る技量の裏付けがありますから尚更です。
金魚の工作記事を見たのは二度目ですが前に見たのはもっと小スケールで(HOスケールだったと記憶)緑色着色レジンに赤ランナーの切り屑を散らしたというモノだったので本格的な製作記事は初めてです。
1/25クラスなら造形的には楽でしょうし小スケールなら切り屑で済みますが1/35は微妙な大きさで難しそうですが流石に巧くまとめ上げております。
国芳が出たなら次は鳥獣戯画だ!と勝手に考えておりましたが新作も既に展示されておりまして・・。
鳥居の色が凄くイイと思いましたがウィーゴのほうは開いた口に水晶球があり光線でも出てきそうでちょっと怖い感じがして怪奇的といいますか・・・。
そもそもメカトロウィーゴとは何なのか未だにわからないのですが、知識の無いまま拝見したほうが自由に感じ取れるような気がして敢えて調べないでいるので私の中ではUMA扱いになっている所為で怖さを感じてしまうのかもしれません。
由良之助様
こんばんは、いつもコメントありがとうございます。
1/35金魚、先行作例が意外とありそうで無く、思いのほか手探りでの作業でした。
多分、ウィーゴ本体より時間がかかってます (笑)
続編も近々記事をアップしたいと思っていますが、ウィーゴについては割と行き当たりばったりで脈絡がないのです。特に意図した訳では無いのですが、何故か動物がらみ、と云うのが微妙な共通項でしょうか。
ウィーゴは可愛い系アプローチが多いのですが、お稲荷ではおっしゃる通り、敢えて可愛い・美しい方には振らず、本体も子供も少し妖しげで土俗的な怖さを狙った塗装にしています。ほんのり怖さを感じ取っていただけたのであれば「してやったり」でございます。
あと、ツイッタァアカウント開設されたのですね。当方もフォローいたしました。
いきなりは難しいとは思いますが、いずれ、龍門さんの掲示板で開陳されているような、コアな軽巡話をそちらでも披露していただければと思います。
私の作風が作風なので、フォロワーさんの中にもああ云ったマニアックな研究がお好きな方が多く、歓迎されると思うのですよ。