以前、アオシマワスプのおまけとして付属していた巡潜乙型の初期型・伊19が単体で発売された。
そこで、今回は簡単にレビューするとともに、巡戦乙型のディテール周りについて軽く調べてみた。
1/700巡潜乙型キットの現状
既存品ではフジミの伊15もしくは伊19の名で発売されており、WLシリーズのフジミ脱退でラインナップに空いた穴を埋める形となる (空いた穴のもう一方、丙型後期型はどうなるんだろう……)
また、タミヤからは準同型の乙型改二の伊58が前後期で2種類発売されていたが、前期型は船体断面に難があり、乙型~改二前期型を今日的なディテールで作るには、伊58同士のニコイチが前提となる、ややハードルの高い状況だった。
なんと云っても、アオシマ版で格段に良くなったのが船体断面。
フジミについては、船体形状云々以前に、前世紀から舷側の排水孔モールドが雑な印象があり、既に発売後半世紀経とうと云う今日では、手を入れるにも相当厳しいと思う。
船体形状の色気は流石のアオシマ
さて、アオシマの新キットは同社らしい色気のある船体ラインとメリハリのあるモールドが特徴で、写真がそこそこ残っている側面形は、実物と比べても良く特徴を捉えているように思う。
側面形に限れば、タミヤの旧版伊58も秀逸で、また、排水孔も前述のフジミと同時期と思えぬ繊細なもので、断面系に拘らなければ充分ディテールアップのベースになりうる出来。
側面形は両者優秀。タミヤが2mmほど短いが、あまり気にならない。開戦時で作るなら、アオシマの22号電探は切り取っておこう。[1]
断面形と平面形は部分写真や建造中の写真しか見つけられなかったので、昭和造船史収録の伊15の一般艤装図[2] と比べてみる。
平面形は図面とほぼ一致しており、気になるところは無い。断面形は、艦橋付近までの前半部はかなり忠実に再現しており、後半部分では排水孔あたりのくびれがやや強く、その結果、実物の写真と比べても影が落ちやすい。
写真の赤く塗った辺りが、図面ではもっと平坦な面に描かれている。
模型として見た場合、このくびれの強調によりかなりグラマラスに見えるので、これは図面や写真の読み違えではなく、意図的なアレンジではないかと思う。
最後に、これは形状把握とは直接関係ないのだが、埋め込み式の船底板はフィッティングがイマイチで、WL状態で無理に合わせると船体が反ってしまう。船体左右を貼りあわせた状態では不安定だが、上甲板を取り付けると安定するので船底板は省略してしまう方が良いと思う。
ディテールは「盛り」前提? かなり濃いめの味付け
ディテール面では、排水孔のモールドはかなりシャープで正確だが、舷外電路は省略されている。外版継ぎ目のモールドは、建造中の写真などで確認できるので誤りではないが、竣工後に確認できる写真は殆どなく、やや過剰に思える。
艦橋部分はアオシマの常で、形状把握は良いものの、プラの肉厚が気になる。また、格納庫のイボ状モールドは、先の舷側継ぎ目同様過剰な感じで、アップの写真では確認できるものの、全体写真では殆ど判らないもので、却って実物の印象を損ねてしまっている気がする。
総じて、拾えるディテールは総て放り込んだ、と云う印象で、同社に共通するやや太め・厚めな成形と相まって、良く云えば濃い、悪く云えばクドい印象。
こんにち主流の、エッチングパーツで「盛る」ディテールアップ前提で解像度を定めているのではないだろうか。
一方、米本土爆撃の伊25を擁する艦級にもかかわらず、クレーンや水偵用滑走車など、航空関係の装備が全般に省略気味なのが残念。
前掲の側面写真で判る通り、航空機格納筒のイボ状モールドはこのスケールだと殆ど見えない筈。
そう云ったディテールアップをしない場合や、既存ラインナップとの整合を求める場合、勿体ないが上記のモールドは削ってしまうのもアリだと思う。
個人的には、タミヤの旧伊58は、合わせこそやや厳しくなってきたものの、モールドの繊細さと省略センスではアオシマ伊19より好みで、自分で作るならこのバランスに揃えたい。
小改造で乙型改一を作ろう
キットは伊15~伊39までの無印の乙型に基づいているが、デカールでは乙型改一の伊40~45まで付属している。
改一への改修点は多くなく、伊44の写真[3] と見比べると主な修正個所は前から順に
- 艦首潜舵ガードの廃止
- 左舷主錨の廃止
- 機銃側面の側壁に切欠き追加
- 主砲側面の波除廃止
- 後部排気口上の甲板両舷に箱状構造物の追加
の5箇所である。
他にも細かい変更があるようだが、このスケールで目立つのはこのあたりかなと。
詳細な変更については、以前、駆逐艦の件で燕雀洞にもコメントを頂いた老猿氏の考察が判りやすい。
プラ板さえあれば簡単に修正できるので、改造初心者の方もぜひ試してみて欲しい。
後甲板の構造物詳細。老猿氏のブログによると応急遮断弁とのこと。
ニコイチで九六式小型水上機を作ろう
潜水艦の搭載機としては、米本土爆撃でお馴染みの零式小型水上機、通称「金魚」が有名だが、開戦当初は先代の九六式小型水上機を装備していた。
金魚があまりに有名な所為かキットに恵まれず、調べた限りでは定番入手できるキットが存在しなかった。
形状的にはそこまで特殊な形状ではなく、細部にこだわらないなら、静協Wランナーなどに含まれる「九五式水偵」の胴体と下翼に「九四式水偵」の上翼とフロートでそれらしいものが作れる。具体的な加工は下写真を参照のこと。
小型の機体のため、元キットの切断や削り込みでシルエットを出せるのが手軽でよい。
資料に恵まれない機体だが、日本海軍機史に図面があり参考になる。
キットに付属する零式小型水上機はアオシマ・タミヤの他、WL共通ランナーにもあり、流石に恵まれている。
実機写真[4] と比べると、タミヤはやや後部胴体がやや細く、他二者がやや太い。翼上面の布張り表現はアオシマが一段抜けているので、アオシマをベースに胴体をシェイプアップするのが最良か。流石に複雑なフロート支柱はいずれも簡略化されているので、ここをどう再現するかが腕の見せ所。
米本土爆撃の小さな勇者。伊25を作るなら、カタパルトに載せておきたい。
舷外電路は概ね3パターン
前述の通り、キットでは舷外電路が省略されているが、これは電路のパターンが複数存在するためと思われる。こう云うのを気にする人は、どの道モールドしていても削って自作してしまうだろうから、最初っからつけずに置くか、と云うことなのではないかと思う。
後述するが、パターンの中には排水孔スレスレを走るものもあり、これをモールドしてあると削る際に排水孔を消しかねないので良い判断だと思う。
キットのデカールが対応する乙型~乙型改一では、大きく分けて3パターンの電路が確認でき、最も多いのが、伊29の写真[5] などにみられる後部排気口直前で屈曲して下に降りるパターン。そこから前は、概ね上甲板ラインに平行して走っており、上甲板からの距離やカバーの付き方で各艦に微妙な差がある。
殆どの艦は一番上のパターンに近い。
次に、呉工廠建造艦のみに確認できる、排水孔沿いのパターン。
これは伊26[6] ・伊30[7] の両艦に確認でき、残る伊15・37と改一の40~42では電路が確認できる写真が無い。今のところ、呉艦で別パターンの写真は見つけられないので、伊15と伊37もこのパターンだろうと考える。
最後が乙型改一の伊44[8] にのみ確認できる、排気口の上を跨いで、上甲板と平行に走るパターン。
現状、伊44以外に乙型改一の電路が確認できる写真は見つけられず、これが44固有パターンなのか、改一共通のものなのかは不明。
少なくともこの前に横須賀で建造された無印乙型の伊36は先の後ろ曲がりパターン[9] であり、横廠独自パターンではない気がする。
また、その後3隻とも横須賀で建造される乙型改二では、先の後ろ曲がりパターンに近いが、屈曲位置が艦橋直後まで前進しており、また左右非対称に解釈できる写真もあるなど、伊44とは全く別物で参考にならない。
さて、巡潜乙型と云えば、日本艦には珍しい豊富な塗装バリエーションだが、長くなってしまったので、前後編に分けて後篇で纏めたいと思う。それでは、来年も宜しくお願いします。
参考書籍
- 福井 静夫『写真 日本海軍全艦艇史』KKベストセラーズ、1994年、711頁^1、715頁^3 ^8、710頁^6、712頁^7、714頁^9
- 日本造船学会「一等潜水艦 伊15型 伊15 一般艤装図」『明治百年史叢書242 昭和造船史別冊 日本海軍艦艇図面集』原書房、1975年、98頁 ^2
- 『日本潜水艦史 世界の艦船 2014年1月号増刊』海人社、2013年、75頁 ^5
参考ウェブサイト
- 「零式小型水上機 – Wikipedia 」、2016年12月閲覧^4
全て敬称略。