アオシマのリニューアル版「イラストリアス」の完成である。餓鬼の時分に作り散らかしたのは措いといて、模型をちゃんと作るようになってから最大のフネである。
また、空母を組んだのも初めて、おまけに英国艦も初めてである。それ故に完成後1年以上経た今では色々粗が気になってしまうが、ともあれ完成できた、と云うのは自信につながるものだ。
まずは写真から。今回の写真は、すべてクリックすると拡大できる。
アオシマ「イラストリアス」を左舷から。飛行甲板外周に追加した安全網と待機所が目立つ修正点。
アオシマ「イラストリアス」を前方から。飛行甲板と艦首を一体化したハリケーンバウが格好良い。
アオシマ「イラストリアス」を左舷から。飛行甲板外周に追加した安全網と待機所が目立つ修正点。
「イラストリアス」とタラント空襲
「イラストリアス」は空母「イラストリアス級」の1番艦で、飛行甲板に装甲を施した世界初の装甲空母である。1940年竣工、基準排水量23,000トン。
大戦前半は地中海を中心に活動し、本艦の活躍として最も有名なのが「タラント空襲」であろう。1940年11月11日深夜、イラストリアスから発進した21機の「ソードフィッシュ」雷撃機はタラント軍港に停泊中のイタリア艦隊を急襲、戦艦3隻を大破着底させた。
イギリス側の損害は僅か2機と一方的な勝利で、航空攻撃のみで主力艦を撃破した最初の事例である。この勝利は、約1年後の日本海軍による真珠湾攻撃の構想に大きな影響を与えたと云われている。
その後、戦傷により一時期艦隊を離れアメリカで修理を受けたのち再び地中海で戦い、イタリアが降伏すると東洋艦隊と所属を替え日本と対峙、主に陸上拠点への空襲で数多の戦果を挙げた。大戦末には太平洋艦隊へ所属し、1945年春に日本軍の特攻により損傷して大戦での戦いを終える。
世界初の装甲空母の栄誉に相応しく度々の損傷を受けつつも大戦を戦い抜き、戦後は練習任務に服したのち1956年に解体。同型艦総てが大戦を生き延びたことからも、本級のタフさが窺い知れよう。
連載のまとめ
- このキットで一番難儀なのは、飛行甲板外周の安全網と待機所がまるっと省略されてるとこ。
- 上構や小物は同社キットの常として考証的にもモールド的にもやや甘いのだが、致命的と云うほどでもないので、この辺りを弄るかどうかは愛次第。
- 逆に、目立たないけど直した方がいいのは短艇。似てる似てない以前にボートとしての基本形からしておかしいので、ある程度フネの形状知ってる人が見るとかなり興醒めな点。
- 仕上がりの地味さに反して難儀したのが塗装。グレーの色調についての説が未だに決め手を欠くらしい。
主要参考文献
基本形や開戦時までの仕様については、スクラッチ版の資料一覧を参照されたい。本稿では、1942年仕様に関しての資料のみをまとめる。
Ross Watton『The Aircraft Carrier Victorious (Anatomy of the Ship)』Naval Inst Pr、1991年
同型艦のヴィクトリアスを扱った図面&写真集、「イラストリアス」作るうえで何か1冊選ぶとすればこれ。部分図まで詳細に図面が起こされているが、公式図面ではないので過信は禁物。洋書なので価格は変動するが概ね8千円台~1万円ほど。
Alistar Roach 『The Life and Ship Models of Norman Ough Kindle版』Seaforth Publishing、2016年
一部短艇の図面が載っている。輸入書版が3千円前後、キンドル版が1,800円だが、キンドル版は画像が小さく見づらかった……模型資料として図版目当てに買うなら輸入書版をスキャンする方が高精細な画像が得られるだろう。
『スケールモデルファン Vol. 27 海外艦艇模型超入門』新紀元社、2016年
今回紹介する中で唯一の和書。大戦期の英海軍の塗装についての通史と模型用塗料の近似色が紹介されている。1,469円と価格が手頃なのが嬉しい。
参考ウェブサイト
『Armoured Aircraft Carriers in World War II』
英海軍を中心とした装甲空母の開発・運用史をまとめたサイト。ネットで拾える「イラストリアス」級の写真としては、ここが最も良く纏まっているのではないか。読み物も充実しているが、英語。
イギリスにある帝国戦争博物館公式サイト。膨大な量の写真が掲載されているが、検索ボックスがor検索のため、キーワードによる絞り込みにコツが要る。当然ながら英語。
Alan Raven「The Development of Naval Camouflage 1914 – 1945 Part III: British Camouflage in World War II」『ShipCamouflage.com』
現在主流となっている説の大本。各色の色調が修正マンセルで示されているのがありがたい。やっぱり英語。
Michael Brown、Sean Carroll、James Duff、Lindsay Johnson『Royal Navy Colours of World War Two The Pattern 507s, G10 and G45』
2018年に発表された新説。通説では507Aがダークグレー、507Bがミディアムグレーとされていたが、こちらでは実は同じ色調では? と云う新解釈が。グレーに含まれる青顔料についても言及されており、大戦初期の本国艦隊グレーを考える上では重要な記事。これまた英語。
以上、著者・作者名など、敬称略。
ずっと燕雀洞をご覧いただいている方は御存じのとおり、私の趣味は専ら軽巡以下の中小艦艇で、2万トン越えの巨艦も、そして空母も作るのは初めてである。しかも英艦も初めて (タミヤ製の駆逐艦を10箱ほど積むには積んでいたのだが) と云う初めてづくしで、ディテールの処理にせよ配色にせよ、些かのぎこちなさは否めないと思う。
翌年作ったフライホークの「プリンス・オブ・ウェールズ」。表現はこなれてきたが、とにかく作るの大変だった……。
とは云え、短艇揚収用のクレーンや大戦初期から標準装備されているレーダー、多連装の対空機銃など日本艦にはない独特のメカニズムは模型的にも映える形で作ってても楽しく、また新たな興味の扉が開いた気がする……などと調子に乗っていたら、ほぼ1年後に今度は「プリンス・オブ・ウェールズ」を依頼され、かなり苦戦することとなるのだが、これはまた別のお話。