メリークリスマス! クリスマスと云えば赤と緑だよね、て事で、今回は赤い国の緑の戦車、KV-2を作った話。
90年代AFVブーム以来、約四半世紀ぶりの戦車模型、さてどうなるか。
今まで何度となくツィッタァのワンデイモデリング企画に挑み、その度に敗北してきた訳だが、戦車は工数少なくて良いのでは? と薦められ、折しもモデルキット999のKVが手元にあったので四半世紀ぶりに戦車を組んでみる気になったのだ。
自然光で撮ったら何かスゲー本物っぽくなった奇跡の一枚。
話は逸れるが、ワンデイモデリングに適した模型とは何だろうか? パーツの少なさ、勘合精度の高さ、塗装のしやすさなど、諸兄各々思うところがあると思われるが、個人的には再入手性、これに尽きる。
前回のワンデイモデリングで、長らく積みっぱなしだったHGUCマラサイを作ったのだが、然程思い入れに満ちたアイテムではないにも関わらず、いざ手を動かし始めると、このご時世では二度と手に入らないかもしれない、と云うプレッシャーにかられ、ついダラダラと手を入れ始めてしまった。
ワンデイモデリングのつもりで始めて、完成してみれば40時間超。
ワンデイモデリングに於いて、多少失敗したり、気に食わないことがあっても気にせず先に進む、と云う割り切りは大事だ。たとえ安価でも再入手性の低いキットは、その取り返しのつかなさゆえに割り切りを鈍らせてしまう。そういった意味で、数年前までのガンプラはワンデイモデリングに格好の題材だったし、今ならタミヤのウォーバードやウォルターソンズのモデルキット999などは入手性・構成の簡潔さなどワンデイモデリングに最適のシリーズだと思う。
タミヤのウォーバード零戦。
これもワンデイモデリングのつもりで始めて、完成してみれば20時間。
さて本題。
ウォルターソンズのモデルキット999である。近年、スケールモデルでもちらほら見かけるようになった、接着・塗装不要のフォーマットのシリーズで、AKインタラクティブの協力のもと厳密な考証に基づいた成形色が売り、と云う、単なる初心者向けの枠にとどまらない意欲的なシリーズである。
大抵この手の企画だとメジャーどころのパンター・ティーガーあたりの展開に終始してしまうのだが、ここにT-34を差し置いてKVファミリーが来るあたりがこのシリーズの面白いところ。
そして中々良いものが無いソ連戦車兵のフィギュアがついてるのも嬉しい。
まずは定石通り、足回りから。
このスケールの低価格キットだと、軌道輪の表裏を一体成型した、所謂ナルト成形のものが少なくないが、キットは転輪含め35並みにちゃんと分割されている。
早作りの上で、足回りのゲートとパーティングラインの処理、と云うのがひとつの課題となる訳だが、今回は一旦未処理の状態で転輪をすべて接着。ゲート位置を天面と底面に揃えておき、スポンジヤスリで纏めて撫でて接着、と云うかなりアバウトな処理をしてみた。
最終的にはほぼ死角になってしまうので、多少の小傷は気にせず、とにかくゲートが奇麗に消えるのを最優先とする。
履帯は接着・塗装のできる軟質プラと云う中々のスグレモノだが、ここにこのキットの最大の難がある。
とにかく尺が長く、ただ末端を結合するだけでは転輪から浮きまくってしまう。切って詰めようかとも思ったが、接着強度に不安がある。
そこでまず接地面を接着し、ある程度固着させてから上部転輪の間を治具で強制的に弛ませて流し込み接着剤で固定する。
弛みすぎて不自然ではあるが、まあなんか重量感と迫力は出たので良しとする。
車体の組み立てには特に困難な要素はない。少ないパーツで良く纏まっているな、と云う印象。ただ、強度確保のためかフェンダーが厚い。
個人的に、戦車模型のフェンダーの薄さは、装甲の厚みとの対比において極めて重要だと思っているので、ここは頑張って削る。
実車の写真を見るとタンクデサントの所為か、支持架と支持架の間が下に撓んでいる個体が多いようなので、支持架の裏側にノコギリで切れ目を入れて支点とし、手曲げで撓ませている。
また、前照灯前面のレンズ部の表現がイマイチなので、コトブキヤMSGの丸モールドに置換えた。
銀色なのは、たまたま別の用途で塗っていただけなので特に意味はない。
低価格キット故、仕方ないことではあるのだが、キットにはワイヤーロープとシャックルが無いのが残念。これがあると、一気にソ連戦車らしくなるのだが。
流石にワンデイモデリングで自作する時間も無いので、前部シャックルだけプラ材と糸ハンダで自作。シャックルだけでも思いのほか時間が掛かってしまったので、後部シャックルは取付板に穴を開けるだけでお茶を濁した。
地味な割に手間が掛かる形なので、ここはやはりパーツで用意してほしかったところ。
砲塔も分割が工夫されており、合わせ目を意識させない構造だが、形状的には多少気になるところがある。
主砲の駐退器カバーは正面形が実車の印象と異なるので削り込みでエッジの位置を変えている。
私が見つけた写真だとすべてこの形なのだが、キット通りのタイプもあるのだろうか?
また、前面装甲上端のフックは一般的ではなさそうなので削り取っている。
このフックも実車写真は見つけられず。
戦車キットの肝である主砲砲口はスライド型を用いて綺麗に抜けており、真円出しも合わせ目処理も不要なのが素晴らしい。ただ、表面にパネルライン状の謎のスジボリがあるのでパテで埋めた。
ここに分割線が出る要素はない筈だが、元ネタ何だろう?
機銃はやはり強度と組みやすさの兼ね合いだろうか、フェンダー同様かなりゴツいので0.2mm真鍮線に置換える。ついでに、一体成型で板状になってしまっている砲塔の手掛けも0.3mm真鍮線に置換える。この2つはかなり印象が変わるので、ポイントを絞って手を入れるなら、ここがオススメ。
1/35ならモールドが欲しくなるところだが、1/72ならこれで充分。
図面は持ってないので、太さとサイズは写真から割り出す。
戦車模型の塗りに関しては、前々からやってみたい方法があったので試してみる。
まず、車体と足回りに土色、今回はタミヤラッカーの陸自茶色を吹く。
足回りをマスキングしたのち、凹部に土色を残しながら上から車体色を遠吹き。グリーンの色調はAKインタラクティブの「REAL COLOR OF WWII」の色票を参考にスケールエフェクトを加味し、Mr.カラーの303番。
土色部分のエッジに車体色を軽くドライブラシ。履帯のエッジにはマホガニーをドライブラシ。凹部に泥が溜まり、エッジは擦れて泥が落ち、下地色が覗く、と云う表現。
東部戦線の車両がどんな色の土に、どの程度まみれるのか、と云う点においては、不謹慎ながらこの1年のニュース写真に山ほど高解像度の資料写真がある。
当時と今では車体のサイズも移動速度も違うので、まったく同じ汚れ方はしないだろうが、土の色味などは70年程度ではそうそう変わらぬ筈である。
車体上面と砲塔は、タミヤエナメルのバフ+クレオスウェザリングカラーのグラウンドブラウンの2段階ウォッシングで風雨による溜まり汚れを表現する。面が広いので派手に汚したくなるが、実物は擱座放置の車両でもそこまで汚れている印象が無いので抑制気味に。
前照灯は内部の乱反射を濃淡2色のグレーで手描きした上からエナメルクリアーを厚く乗せてガラスっぽい雰囲気にする。要はキャラクターフィギュアの瞳表現と同じ考え方である。
これで総工数11時間半、残念ながら今回も着手当日には完成しなかったが、かなりワンデイに近づいた気がする。四半世紀ぶりの割にはフェンダーの薄さとか、意外と目の付けどころ・手の入れどころは忘れておらず、三つ子の魂百まで、とはよく云ったものである。
駆け足で作った割には、思いのほか良い雰囲気に仕上がって満足。
今の1/35スケールは解像度・価格ともに先鋭化しており、貧乏人がおいそれと手を出せない世界になってしまったが、ウォルターソンズの1/72は解像度も分割も昔の1/35キットを彷彿とさせるもので、1/35では物足りなさを感じる解像度でも1/72では程よく感じられる。
願わくば同社に限らず、もっとこのスケールで同程度のシンプルさを持ったキットが増えて欲しいものである……と、模型メーカーの中に居るサンタへ願いを馳せてみる。