「紙の燕雀洞」あらわる、そして、ウェブと紙の特性のはなし。

紙の燕雀洞、と云うものが出来た。
ホビージャパン誌で担当頂いている編集氏から、今度スケールモデル専門ムックを出すのでいつもの燕雀洞のノリで一本書かないか、と云う打診があったのだ。
では今後、燕雀洞は紙に舞台を移すのか? 勿論、否である。


まずは書誌情報。


書誌情報

『スケールモデルレビューVol.1 冷戦期の英国ジェット艦上攻撃機』ホビージャパン、2023年7月31日
ISBN: 9784798632322 定価: 2,420円(税込


「スケールモデルレビュー Vol.1」表紙 100頁強のムックなのだが、巻頭特集「ブラックバーン バッカニア」ってだけでも攻めてるのに、バッカニアのネタだけで約30頁! 狂気だ……。

「紙の燕雀洞」では、以前「天龍型」スクラッチの際に採り上げた14cm砲の記事をベースに、ナノ・ドレッドなど、その後発売された各パーツの比較を交えたコラムを書いている。 基本的なノリは此処と同じで、以前より一部の方から強い要望のあった紙媒体で燕雀洞の文章を読みたい、と云うのには応えられたのではないか。

「スケールモデルレビュー Vol.1」目次 「紙の燕雀洞」+HJ本誌掲載の艦NEXT「多摩」2態の再掲もあり、私の担当だけで約10頁! やっぱり狂気だ……。

ただ、商業記事であるが故の制約と云うか縛りを己に課しており、ただの増補版、と云う訳ではない。
ウェブ上の記事と云うのは便利なもので、一度公開した後に間違いが判ったり、或いは新たな発見があった場合、容易に訂正が利く。
いっぽう、紙媒体はひとたび記事が私の手を離れてしまうと、二度と訂正は利かない。しかも保存性ではウェブを遥かに凌ぐ。
勿論、続刊での補足は出来るが、当然、毎号律義に買って下さるお客さんばかりではない。かくて紙媒体の誤りは正されることなく、独り歩きしてしまうのだ。

故に、「紙の燕雀洞」では確度の低い情報や仮説に仮説を重ねたような推測は載せていない。その一方で、ウェブの記事は検索なりブックマークなり、読者がある程度能動的な存在であるのに対し、紙媒体の場合、一冊丸ごとの著作でもなければ「通りすがり」の読者も少なからず居る。故に、ウェブ版では自明のものとして省いた基本的な解説もある程度盛り込んでいる。

要は、情報の取捨選択や記事としての構造は普段の作例記事に近く、文体の方はウェブ版同様の素の文体で書いていると云う、両者のハイブリッドが「紙の燕雀洞」なのだ。

「紙の燕雀洞」 誌面デザイナーのウェブ版理解度が高い! 元々古書をイメージしたウェブデザインが、紙媒体に再輸入されるのがちょっと面白い。

単純な資料としては「紙の燕雀洞」の方が有用である筈。だが、ウェブ版は読者諸兄からのリアクションでいきなり説が覆ったり、或いは一人で迷走したり、ただの模型製作記ではなくその辺りの思考の過程も含めたエンタメとして成立させたい、と思っている。イメージとしては、連載版と別冊版の「ガンダム・センチネル」の違い、みたいなものだろうか(例えが古すぎる……

まあそんな訳なので、天龍型の記事を読了の方もただの焼き直しと思わず買っていただけると嬉しいし、活字好きの方は上記のような情報の取捨選択がどんな形で文章に反映ているのか、みたいなとこに注意してみると二度楽しめるかもしれない(そうかなあ

ところで、掲載誌のスケールモデルレビュー、中々好評だったようで2巻目が出るらしい。と云う訳で「紙の燕雀洞」も続くのだ。で、だね……またしてもPoWの製作記事が遅れるのだよ……。散々偉そうに御高説を垂れて置いて、オチはこれかよっていう。

いや、考証ネタ並行2本はね、流石にシンドイと云うか、頭の中がごっちゃになるのよ……。脱稿したら今度こそ続き書くので!!! (流石に5年前の完成品なので、記憶が怪しくなってきてる


云い訳ばかりではあんまりなので、最後に簡単な書評を。

前述の通り、総頁112に対し巻頭特集が約30頁、そして「冷戦期の英国ジェット艦上攻撃機」と云いつつも作例はバッカニアのみで、実質バッカニア特集と云う攻めた構成。

そして本書を特徴づけているのが文字数の多さ。「紙の燕雀洞」だけで約6,000字有るのだが、それ以外にも作例が付随しない純粋な「読み物」が異様に充実しており、ざっと30ページ近くある。作例以外の充実と云う意味では、以前、ハセガワ「三笠」が作例掲載された「ホビージャパンnext」に印象が近いかもしれない。

ただ、nextが読み物以外にもグラフィカルな頁を多用してサブカルっぽい匂いを漂わせているのに対し、こちらは誌面としての構成は手堅く、模型誌のモノクロページにあるコラム類を主役に据えた構成、と云えば伝わるだろうか。

近年、SNSの台頭により長文より短文、そして主役の画像や動画に添え物としてあるだけのキャプションと、次第にメディアにおける文字数が減りゆく中、敢えてがっつり特盛で長文を読ませるスタイルは人を選ぶかもしれない> だが、「模型好きの活字中毒」と云う私のような人種にはがっつり刺さるのが本書である。

「スケールモデルレビュー Vol.1」裏表紙 実は、表4が私の多摩。モデルアート誌で共同表紙はあったが、単独表紙&ホビージャパン誌での表紙担当は初である。「原寸大以上の刑」を食らってなくて良かった……。

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