この数か月、入院したり薬の副作用で惰眠を貪ったりで随分と間が開いてしまったが、フライホークの「プリンス・オブ・ウェールズ」の製作記、完結である。
まずは過去記事の一覧。
- デンマーク海峡海戦時との違いを洗い出す – 1/700でKGV級戦艦プリンス・オブ・ウェールズをつくる: 1
文字通り、設定年次に基づく差異の洗い出し。 - 船体は大難を避け、小修整で折り合いをつける – 1/700でKGV級戦艦プリンス・オブ・ウェールズをつくる: 2
完成してみれば、この辺りはあまり手間に見合わなかったな……。 - 柔らかく歪みやすいマストを金属化する – 1/700でKGV級戦艦プリンス・オブ・ウェールズをつくる: 3
定番オブ定番作業。何か手を加えたいと思うなら、まずここ。 - 筏に載ってる束状のアレ – 1/700でKGV級戦艦プリンス・オブ・ウェールズをつくる: 4
良く判んねえよなァ、と云うボヤキへのタレコミから最終的に当時の新聞記事まで辿り着くと云う、久々に考証で脳汁出た話。 - クレーンの「エッチングパーツ臭さ」を抜いてみる – 1/700でKGV級戦艦プリンス・オブ・ウェールズをつくる: 5
時には「薄けりゃ良いってモンじゃない」こともある。
- 副錨はニューファンドランドに消えた – 1/700でKGV級戦艦プリンス・オブ・ウェールズをつくる: 7
重箱の隅をつついてみたけど、あまり面白いオチは眠ってなかった。そんな日もある。
- レーダーアンテナに敢えてエッチングを使わない、と云う選択 – 1/700でKGV級戦艦プリンス・オブ・ウェールズをつくる: 8
ディテールを取るか、サイズ感を取るか、と云う命題。
- フライホーク VS ナノ・ドレッド、ハイディティール系両雄のポンポン砲を比較する – 1/700でKGV級戦艦プリンス・オブ・ウェールズをつくる: 9
みんな大好きポンポン砲。けど戦艦クラスだと拘っても目立たない……。
- 再び、戦間期~第二次大戦初期におけるイギリス本国艦隊の色調を考える – 1/700でKGV級戦艦プリンス・オブ・ウェールズをつくる: 10
商業作例を失敗と云い切ってしまうのも忍びないが、隠しても仕方ない。
一覧にして気付いたのだが、舷側の排水樋バリエーションについて纏めた記事が消えている。ツィッタァの告知は残っているので、どうやら公開後に誤って消してしまったらしい。データが見つからなかったら、仕方ないのでその内もう一回書く。
工程を振り返ると、思ったほど手を入れた箇所は少なく、修正・加工よりもキットの通りに組み上げるだけの部分で結構な時間とエネルギーを消費していたのだなと。
前回書いた通り、今となっては配色設計を初手から躓いた結果、妙に明るい色合いとなってしまいスケールモデルとしては不正確だが、造形面では意図通りの密度に仕上がり、立体物としては気に入っている。以下、完成写真。
木甲板はKGVのカラー写真などを参考に、全体に滲んだような濃淡をつけている。
自作のUP投射機とか285型レーダーとか。製作記事では触れてないけど、短艇や両用砲背後の大絡車は写真を参考にカンバス掛け。
中央部アップ。製作記で触れた、ディテールアップしてポンポン砲や厚みを増したクレーン、木の色で塗ったフロートネットなど。前後檣とも上部は煤煙を浴びて黒ずんだような表現に。
全体写真を眺めると、燕雀洞を始めてからの作品の中では比較的原型を保っていると云うか、キットから大きな印象の差が無いような感触がある。実際には、付属の手すりを使わなかったり、船体モールドを削り落としたりと、寧ろディテールダウンをしていたりなのだが。
②艤装の出来が全体的に非常に良く、アフターパーツに交換する必要はほぼ無いと言って良いと思います(フライホークが元々アフターパーツのメーカーですが;)ただ成形不良があり煙突の頭頂部品が使い物にならなかったためジャンクエッチングで作り直しています pic.twitter.com/VjtfTlDiJd
— tri (@tri_3_) March 4, 2018
メーカー公式完成見本が公表されていないので、素組に近い完成品を引用する。張り線を追加したり、内的に砲身可動域の改良などが施されているものの、外形はほぼキット仕様のままで単色塗装されているので、本作と比較しやすい。
前掲の写真と比較すると、「寧ろディテールダウン」の意味が良く判る筈。
これは恐らく、作品自体の大きさに起因しているのではないかと思う。
比較として、同時期同コンセプトで作ったヤマシタホビーの「睦月」。
「睦月」の素組とディテールアップ版
どちらも大きなプロポーション変更はせず、考証面でのディテール変更、過剰なモールドの削除、太いものは細く・厚いものは薄く、と云う、私の商業作例の定番フォーマットである。一目で違いが判るのはマスト部分だろうか。
「PoW」も実はプラパーツなりにマストは太いのだが、引きで全体を見たときに相対的に占めるウェイトが低いため、睦月ほどには目立たない。
コンマ数ミリのマスト径の差は、全長13cmの模型に於いては大きな違いだが、全長約30cmの模型にとっては誤差レベルの違いなのである。
で、ふと思ったのは。
同縮尺の場合、一見、作業量が多く高難易度に思える大型模型の方が、小型模型より要求精度は低いのではないか。
例えば、先の「睦月」の場合、単装砲の一つが大きく歪んでいれば気付かない人は居ないだろうが、「PoW」でほぼ同ボリュームのポンポン砲が1基丸ごと欠けていたとして、すぐ気づく人がどれくらい居るだろうか、と云う。
これはまあ極論だが、普段私がやっているような、、構造物単位でのバランス調整はモノが大きくなるほど目立たなくなる、すなわちスルーしても気にならなくなってくると云う事だ。
これは細かい考証を億劫に感じる人には福音である一方、私のように似せる楽しみに耽溺するタイプの人間にとっては報われない話だ。
仮にもう一度似た仕様のキットの作例の依頼が来たならば、例えば舷窓の高さやポンポン砲の形状などには拘らず、その分、色調面のリサーチや金属パーツの扱いの部分により注力するだろう。と、些か否定的な論調になってしまったが、前述の通り立体物としては気に入っており、砲廓を廃した所謂新戦艦の中でも側面形が保守的なシルエットに纏まっているのも私好みである。
ただ、作例記事としていい加減なことを書けない、と云う点において、対象が大きくなるほどリサーチ要素が増えてくるので、今後、私的には作るかもしれないけど、商業で戦艦クラスを作るのはこれで最後にしとこうとは思った。私的な作品なら、テンション下がってきたら「まあいいか」、で切り上げられるけど、商業じゃそうも行かんからね。
そんな訳で、艦船模型未経験の方で初めてのおすすめは何? と問われると、最近は「一番好きな艦が決まっていればそれを。特に無いならタミヤの『武蔵』」と勧めている。
個人的には「大和型」のデザインは好きではないのだが、以前、時浜次郎氏がサクッと組むには塗り分けがシンプルな大和型が良い、と云う事を仰っており、成程、と思った次第。「大和」ではなく「武蔵」なのは、竣工時の姿でより塗分けがシンプルだからである。
Q.なんでサクっと作るのが大和? A.塗り分け簡単で艦載艇がないから
— 時浜次郎 (@JiroTokihama) January 1, 2014
もし、読者諸氏が大型艦を作ろうとしていて、そのサイズ故に難易度が高そう、と物怖じしておられるのであれば、それは寧ろ逆。大きければ、多少の失敗や作り込みの甘さは気にならない、細かいことは気にせず行こう!