ツィッタァ上の早組み企画でワンデイモデリングに挑戦して、案の定ワンデイで完成しない、と云うのは私にはよくある事(……)なのだが、以前のP-40の時のように久々に敗因を分析してみることにした。今回のお題は艦船模型、アオシマの砲艦「橋立」である。
比較的新し目のキットで、小型ゆえに部品も少ない。これは負ける要素は無いのでは? と思いきや……。
ここで考証を持ち出し始めると、到底1日で終わらないのは明白なので、基本的にスタイルは弄らず、手癖で出来るディテールアップと市販アフターパーツの置換えに絞って早期完成を目指すこととする。
梯子に翻弄される1日目
まずは1日目。
2時間半経過。船体のナット埋め、反りの修正の基礎工事完了。
舷窓は薄くてスミ入れも難しそうだったのでピンバイスで浚いなおし、逆に舷外電路は自己主張が強かったので表面をヤスって薄く。
反り修正と舷窓開けに、思いのほか時間を喰われた。#1dayモデリングT製作会20240309 #艦船模型 #橋立 pic.twitter.com/XVAjW4dwM0— 春園燕雀 (@EnjakuHaruzono) March 9, 2024
具体的には、ナット埋めと反りの修正で1時間弱、舷窓開けで1時間半、舷外電路処理は舷窓開け後の船体表面均しついでなので、ほぼ時間に含まれない。
ナット埋めは乾舷が低い「橋立」の場合、上甲板に干渉するのでどこでもお好きなところに、とはゆかず、位置決めに手間取った。ここに迷いがなければ、20分くらいは縮むかもしれない。反りの修正は曲げて削っての繰り返しなので、どうにもならん。
舷窓は片舷で50個強、両舷で100超えるので1個抜くのに1分弱と思えば、ここもあまり短縮の余地は無さそう。
錨鎖は駆逐艦以上に細いので、久々にダクトテープ細切り法で再現する。
撚り線方式より鎖っぽさは低いが0.1mm幅くらいの鎖も難なく作れるのが利点。この手の工作は楽しい。 #1dayモデリングT製作会20240309 #艦船模型 #橋立 pic.twitter.com/JizNKCEqup— 春園燕雀 (@EnjakuHaruzono) March 9, 2024
続いて、錨甲板モールドの再構築で1時間。これは手間対効果を考えれば妥当。
そして、ここからが問題。
下部艦橋甲板は、前後ともリノリウム塗装指定なのだが、前半は抑え金具の間隔が異様に狭く、後半は何故かモールドが無いので両者とも一般的な間隔でスジボリ。
側面の扉と梯子はモールドが薄いのでプラ板とエッチングメッシュに置換えた。#1dayモデリングT製作会20240309 #艦船模型 #橋立 pic.twitter.com/raVII0ierJ— 春園燕雀 (@EnjakuHaruzono) March 9, 2024
この工程で約4時間。考証は深追いしないと云いつつリノリウム解釈を弄っているが、実はこれはあまり時間かかってない。精々30分。殆どの時間は両舷の梯子に費やしている。
補足。同型艦「宇治」の機銃甲板。キットでは1mm間隔くらいで押さえモールドが入っているが、写真では一般的な1.8m=1/700で2.6mmピッチに見える。
最初は市販のエッチング梯子を試みたのだが、幅が広すぎて両舷の舷窓に干渉してしまうためにボツ。仕方ないのでハセガワトライパーツの0.42mm角メッシュから切り出している。
ちなみに、森恒英氏の「軍艦雑記帳」によれば、直立梯子の寸法は踏板の間隔が350mm、すなわち1/700で0.5mm。横幅は200~300mmで1/700ならば0.3~0.4mmとなり、トライパーツのそれは汎用正方形メッシュの中ではかなり直立梯子の寸法に近いのである。
話が逸れた。
手順としては、金属用ニッパーで一列分を切り出し、両側面の切り口をヤスリで削って均すだけなのだが、とにかく削ってる最中に紛失しやすいし、接着しようと摘まんだ際も紛失しやすい。1本作るのに平均して7~8本分くらいは失くしている。今回は両舷なので、合わせて十数本(流石に数えてないが)、仮に15本に3時間とすれば1本あたり12分のペース。作業中の感触としては確かにそんな感じ。
ここは舷窓の位置をズラして前述の幅広の梯子を使うか、削り落としたものは仕方ないと省略すべきだった。それだけで3時間は短縮できた。
終了のお時間。比較的新し目で精度も高くパーツ数が少ないと云う、WLシリーズ屈指の低難易度キットの筈だが、それでもワンデイには遠く及ばぬ進捗。
とにかく舷窓空けと反りの修正に時間を喰われた。やはり艦船ワンデイは無謀であったか。 #1dayモデリングT製作会20240309 #艦船模型 #橋立 pic.twitter.com/DjwTd71ZLC— 春園燕雀 (@EnjakuHaruzono) March 9, 2024
まずいのは、この時点では梯子が大きな遅延要素だと自覚していないこと。「たまたま紛失が続いた」ので余分に時間が掛かってしまった、くらいに思っている。
実際、前述の計算では、一度も失くさなければ両舷一対で30分と掛からない。が、私に限ればそんなことはあり得ないのである。
煙突後ろの烹炊室(?)天井が鉄張り表現なのだが、酷暑の揚子江でそんな造りにしたら中の人が死ぬと思うので、他の部屋と同様リノリウム張りに。
側面モールドは活かしたかったが、どうしてもエッジの隙間を埋めると削れてしまうので作り直し。#1dayモデリングT製作会20240309 #延長 #艦船模型 #橋立 pic.twitter.com/u7TUIjRMhG— 春園燕雀 (@EnjakuHaruzono) March 9, 2024
艦尾甲板室(厠?)天面も下部艦橋甲板同様にリノリウムの目地が狭いので削って引き直し。扉と梯子は他と表現を揃えるために作り直した。
エッチングメッシュから梯子作るのがしんどいので、楽な方法が知りたい。
ここまでの実作業、約13時間。#1dayモデリングT製作会20240309 #延長 #艦船模型 #橋立 pic.twitter.com/bE9PfhBPaT— 春園燕雀 (@EnjakuHaruzono) March 9, 2024
故に、その後も梯子自作を続けてしまい、構造物2か所の4本の梯子+プラ棒からの扉切り出し+リノリウム彫り直しで4時間費やしたあたりで漸く「梯子ヤバいな……」と気付くが、既にこの後、省略できるような梯子はないのであった。多分、ここでも梯子省いてたら2.5時間くらいは短縮できている。
但し、この工程では烹炊室天面の写った写真を探したりして数十分寄り道しているので、必ずしも梯子ばかりが戦犯ではない。この日、約13時間作業していたが、全正解ルートなら8時間くらいでここまで辿り着けたかもしれない。
疲労で判断力を喪う2日目
そして2日目。
本日の作業、+2.5時間。キットのパーツをゲージにプラ棒と伸ばしランナーでマストを組む。
本当はもっと三脚を細くしたいが、これ以上細くすると金属線必須になり、短時間では組めない。
見張台に何もないのは寂しいので、双眼鏡など置いてみる。#1dayモデリングT製作会20240309 #延長 #艦船模型 #橋立 pic.twitter.com/mo8Nf5WMUK— 春園燕雀 (@EnjakuHaruzono) 2024年3月10日
+1.5時間。後マストも同構成だが、流石に0.3mmでは太く感じられてしまう。ただ、0.2mmを伸ばしランナーで作ると、どうしてもこの長さでは反ってしまう。
斜桁はキットでは再現されてないが、これが無いと旗が掲げられないので追加。#1dayモデリングT製作会20240309 #延長 #艦船模型 #橋立 pic.twitter.com/gH1PLVEsWW— 春園燕雀 (@EnjakuHaruzono) March 10, 2024
一晩寝て頭がリセットされた所為か、この辺りの割り切りはベストな選択だったと思う。
金属線と較べたときのプラ製の利点は、接着時の微調整の容易さと接着強度の堅牢さ。一方、欠点は長尺になるほど反りが不可避になることと、経年で反りが出ること。また、0.3mm未満の径の市販品が無いこと(プラストラクトの0.3mm丸棒は実測0.26mmくらいなので、実際にはここが下限)も人によっては欠点かもしれない。
今回の場合、前後とも三脚楼ゆえに構造上反りが抑制されるため、ほぼプラ製の欠点が抑制される。後檣は0.2mm伸ばしランナーで出来ないことはないのだが、主柱用の反りのない一本ものを作るのにどうしても試行回数が増えざるを得ないため、今回は妥協した。多分、時間を気にしないなら、1時間くらいひたすら伸ばしランナー作ってれば1本くらいは真っすぐな0.2mm径の良材が採れたと思う。
高角砲と機銃はキットの砲架にナノドレ砲身を移植。シールドの厚みと干渉し、思いのほか手が掛かった。やっと塗装に入れるが、19時完成は無理だったか……。#1dayモデリングT製作会20240309 #延長 #艦船模型 #橋立 pic.twitter.com/oRRHb2zU1N
— 春園燕雀 (@EnjakuHaruzono) March 10, 2024
一見、妥当な判断に見えるが実際には手際が悪かったところ。単装高角砲はナノドレ砲架にキットの盾、連装高角砲は砲身のみナノドレ置換しているのだが、手数を減らそうとした結果砲身の角度が不自然になってしまった。ここは、一旦キットパーツのみで組み上げた後に砲身を切り取って差し替えた方が奇麗に仕上がったし、微調整要素が無い分だけ時間も短縮できたのではないか。とは云え短縮できたとしても1時間程度か。
本日の作業、約11時間。進捗全然ダメでした。#1dayモデリングT製作会20240309 #延長 #艦船模型 #橋立 pic.twitter.com/XG7603VKVc
— 春園燕雀 (@EnjakuHaruzono) March 10, 2024
眠すぎてツィートでは省略してしまっているが、サフ吹き・傷埋めの最中に艦橋のエッチング窓枠を破損してしまい2時間ほど修復。短艇ほか小パーツの切り出し・ゲート処理で約1時間半、木甲板と鼠色の吹付で約2時間費やしている。
反省点は2点、まずは艦橋窓枠。普段はエッチングの接着強度を得るため、プラパーツ側の窓枠下端に隠れる位置に「接着しろ」をプラ棒で追加しているのだが、それを省いた結果、表面処理中に軽くヤスリを当てるだけで外れてしまうようになってしまった。30分程度の手間を惜しんだゆえに、2時間失っている。
もう1点は塗料の希釈。鼠色はMr. カラーの607番、護衛艦用のN5を瓶生で吹いているのだが、瓶に薄め液を入れ過ぎてしまい、何度吹き重ねても色がつかず、しかも異常な光沢面になってしまった。休憩不足による注意力の低下である。本来の希釈濃度なら全パーツ塗り終えるのに1時間掛かるかどうか、くらいであろう。
高角砲処理に手間取った夕方ごろから明らかに注意力の低下が目立っており、それが終盤の塗装に至って最悪の形で表れてしまった。完成を焦らず適度な休憩を挟んでいれば、却って3時間以上は短縮できたのではないか、と思う。
労働のあとの3日目、そして完成へ本日の作業、約3時間。上部構造物をひたすら筆で塗り分け。塗ってる最中は異常に艶が出て色味も微妙な感じに見え、不安になるが、最終的にフラットクリアを吹くとそれなりに落ち着いた感じで安堵。
しかしまあ筆ムラが酷い。#1dayモデリングT製作会20240309 #延長 #艦船模型 #橋立 pic.twitter.com/wVJAtIppsO
— 春園燕雀 (@EnjakuHaruzono) March 11, 2024
本日の作業、約3時間。上部構造物をひたすら筆で塗り分け。塗ってる最中は異常に艶が出て色味も微妙な感じに見え、不安になるが、最終的にフラットクリアを吹くとそれなりに落ち着いた感じで安堵。
しかしまあ筆ムラが酷い。#1dayモデリングT製作会20240309 #延長 #艦船模型 #橋立 pic.twitter.com/wVJAtIppsO— 春園燕雀 (@EnjakuHaruzono) March 11, 2024
ここからは仕事の日なので作業時間が細切れになる。何故か作業中はフラットベースを入れて塗る、と云う発想がなく、フラットクリアを吹いた時点で気付く始末。序盤にフラットベースを入れてれば多少発色が判り易くなって作業性が上がったかもしれないが、まあ誤差の範疇。
今日は体調が悪いので少しだけ。新造時なので汚し過ぎないようグランドブラウンで薄くウォッシング。煙突だけは新造時でも汚れるのでがっつり汚す。
木甲板は人通りの多いところに薄くグレーを乗せ、濃淡の調子を付ける。#1dayモデリングT製作会20240309 #延長 #艦船模型 #橋立 pic.twitter.com/MJGxE0Vt77— 春園燕雀 (@EnjakuHaruzono) March 12, 2024
諸々組付けて完成。ワンデイモデリングのつもりが足掛け5日間・32時間くらい。ほぼ無考証で、手癖でディテールアップしただけだが、意外と時間が掛かった。やはり艦船ワンデイは難しい。
まあ、掛けた手間の割には雰囲気良く仕上がった気が。#1dayモデリングT製作会20240309 #完成 #艦船模型 #橋立 pic.twitter.com/FPO401yMfl— 春園燕雀 (@EnjakuHaruzono) March 13, 2024
ラスト2日、この辺は特に問題なく、ウェザリング~最終組付け~クリアコートまでで3時間くらい。ウェザリングとクリアコートは省こうと思えば省けるが、それで1時間以上変わるかと云われれば微妙なので時間対効果を鑑みればやっておくべき。
上記の短縮しえたかもしれない要素を全て出来ていれば、-8時間で延べ24時間……これ、どう頑張ってもワンデイ無理なやつだ! あとは舷窓開けを省けば1時間以上縮むかもしれないが、このキットに限ればモールドが薄いため、スミ入れが綺麗に入らず結局時短にならないかもしれない。
結論、どんなに頑張っても艦船模型には2日以上掛る
まあそれはそれとして、一週間足らずで作った割には、模型としてはそこそこの見られるものになった気がする。
更に考証的に詰めていくとしたら、甲板敷物の配置と、左右対称になっている上構モールドの検証だろうか。船体形状については公式図面の類を見たことが無いので何とも云えないが、少なくとも光人社の「日本の軍艦」記載の船体寸法とは一致しており[1] 大きな誤りはないのではないかと思う。
余談2題
余談だが2013年発売のこのキット、ちょうど現代的フォーマットへの過渡期だったようで、モールド表現などは最新キットと較べても遜色ない精度なのだが、軍艦旗のデカールはなく懐かしの窓枠と一緒に印刷された「紙シール」である。流石に砲艦には大きすぎるので、以前、作例用に作っておいたコンビニプリンター製の自作軍艦旗に置換えている。
紙シールの代わりにコピー用紙かよ、と思われるかもしれないが、裏面を薄く剥いで二つ折りにするとデカールほどではないがそれなりにスケール感のある薄さになる。はためかせてしまえば、殆ど厚みは気にならない。
シールの裏紙を剥ぐ感覚で、断面からナイフの刃を入れて裏面を剥ぎ取る。
貼り合わせの際、瞬間接着剤を用いると写真下のように染み込んで変色してしまう。セメダインハイグレード模型用で貼り合わせ、生乾きの状態で癖をつける。
手持ちにあった駆逐艦サイズを使ったが、「宇治」の写真を見ると実際にはこの半分くらいのものを掲げていたようだ。断面部分を赤の極細ペンなどでタッチアップすると、より目立たなくなる。
余談その2。ツィッタァ上で茶月水堂氏に教えて貰った、3Dプリント品のループアンテナ。
今まで、エッチング、金属線、伸ばしランナーとどれもモノにできず、プラ板の切り出しに落ち着いていたのだが、1本作るのに数時間コースで精度的にも時間的にも納得ゆくものではなかった。さりとてアンテナゆえに「周りに遮蔽物のないところに据えるのが原則」であり、ムクのプラパーツではどうにも悪目立ちしてしまう。1セット数百円で大量に単一パーツが入ってるので、私のように失敗・紛失がデフォのボンクラにも優しい仕様だ。
仕上がりは御覧の通り。ここまでに数本紛失・折損してしまったが、それでも10分ほどで施工終わるのが素晴らしい。
おなじく艦尾信号燈。これは今まで、ファインモールドの0.9mm角メッシュを切り出して使っていたのだが、これも時間的にはかなり改善。
小艦艇に使うには若干オーバースケール気味なので、これは従来のメッシュ方式とモノによって使い分けかな。
このワンデイモデリングのルールでは、10時スタートの23時終了で、仮に食事中断を2回4時間とすれば実質7時間である。塗装~最終仕上げを今回と同ペースかつノーミスで行えばほぼ7時間であり、そもそも素組全塗装でも間に合わない。すなわち、今後、塗装や最終組み上げ、仕上げ部分で画期的な時短方法を見つけない限りはワンデイモデリングは成立しないのが判った。
なんだか残念な結論だが、商業作例などの明確な〆切がある作業の場合に何を優先すべきか、と云う見切りの目安が得られたのは収穫である。また、物理面では、エッチングメッシュ法に代わる、妥当なサイズ感の梯子を探しておいた方が良さそうだ。
そして何より、如何に気分が乗っていようと、実際の集中力には明確な持続上限があるので、適度な休憩が結果的な時間短縮につながるのが数値化されたのは大きい。もはや身体能力が衰える一方の年頃ゆえ、「自分の肉体を過信しない」と云うのは、ゆめ忘れてはならぬのだ。
10年前にスクラッチした「嵯峨」とツーショット。やはり工作精度は10年前の方が高かった。
写真引用元
- 『歴史群像 太平洋戦史シリーズ51 帝国海軍 真実の艦艇史2』学習研究社、2005年、40頁
参考書籍
- 『写真 日本の軍艦 第9巻 軽巡II』光人社、1990年、246頁 ^1