MSVとGFFの良いとこ取りで「プロト化」する – 1/144でHGオリジン版ガンダムをプロトタイプガンダム風に作る: 2

HGオリジン版RX-78をベースに作る似非プロトタイプガンダム。今回は、ノーマルガンダムとプロトの差異を洗い出しつつ、MSV画稿とGFF画稿の良いとこ取りで各所を「プロトタイプ化」してゆく。


RX-78-1とRX-78-2の主な相違点
赤い部分が構造自体異なる箇所、青い部分は形状解釈次第で作画揺れに含まれるかな? といった箇所。腰ホルスターは、前面稿では右腰、背面稿では左腰となっているが、キットの解説書文中では「右腰」と明記されている。[1]

まず、MSV版の設定画から、RX-78-2との相違点を洗い出す。
上から、ランドセルのロケットノズル取り付け部、前腕の段差、腰のホルスター、褌後部の張り出し、足首アーマーの姿勢制御バーニアが明確な相違点。
各所にパネルラインが追加されているが、これは相違点と云うより「ディテールアップ」の類であろう。

RX-78-1とRX-78-2の背面比較
前面稿では-1と-2で肩アーマーの形が違うのだが、背面は同型。意外と言及されないが、RX-78の肩アーマーは-1も-2も前後非対称である。

それらの内、今回完全にスルーしたのはランドセルと褌後部。まずランドセルについては、そもそもキットの形状解釈がRX-78-1のそれに近い
RX-78-2の画稿ではランドセルの上下中央部あたりの緩いエッジがあり、底面から埋没式にロケットノズルが見えているが、RX-78-1では-2でエッジのあった付近から大きく背面が開口して斜めに削ぎ落され、ノズルが露出している。

HGオリジンガンダムの背面
ディテールは調整したが、ランドセルの基本形状と構造はキットのまま。

キットでは両者の中間的形状であり、緩やかなエッジはRX-78-2を踏襲しつつも、開口部の大きさやノズルのアレンジはRX-78-1の画稿寄りである。ここから更に寄せることもできるが、ノズルユニットに挟まれた中央部の加工が必須となり手間に見合わないので、キットの解釈のままで行くことにした。

次に褌後部。RX-78-2では腰アーマー上端まで褌部が出っ張っているが、RX-78-1では張り出しの上半分ほどが無く、スカート中ほどから褌が始まっている。何故かこの特徴は、連載初回で紹介したカトキ氏のリファイン版のいずれにも継承されておらず[2] [3] RX-78-2と同形状とされているのでそれに倣った。
一方、MG版や1/144MSV版など、カトキ氏がデザインワークに絡まないキットでは、キチンとこの形状は再現されている。

MG プロトタイプガンダムの背面
MG版の尻。元設定の意匠を汲みつつ立体映えするアレンジを盛り込んでおり、なかなか格好良い。

前腕はGFFを意識する

前腕は、足首ガードと並んでプロトの代表的な特徴である。
MSVの画稿では外側面を除く三面に凹みがあり、MG版とMSV版、GFF版の三者の立体物では比較的忠実にそれを再現している。
一方、GFF版の開発画稿では内側面もフラットで、手首側は腕輪状に四面とも僅かに段差が付くと云う独特な形状。同時期のMG Ver.Kaベースの画稿では-2と全く同じ形状にされているのとは対照的である。序説で述べたように、両者のデザインワークはほぼ同時期に進んでおり、同モチーフでもコンセプトによって自在に方向性を変えるカトキ氏のアレンジャーとしての妙技が見て取れる。

キャラクターモデル誌掲載イラスト
MG Ver.kaベースのイラストでは、RX-78-1も-2も前腕は完全に同一形状。

GFF プロトタイプガンダム開発用画稿
前腕下端の腕輪的なアレンジは、他のカトキ系78画稿にも見られない珍しい特徴。

奇しくもオリジンガンダムにも腕輪状のパネルラインがあり、キットでもそこが分割線になっている。このパネルラインをGFF画稿の「腕輪」に見立て、GFF画稿に寄せたアレンジにしてみた。基本的には削り込みのみの工作で、画稿とは元々のバランスが違うので完全な再現にはなっていない。

HG オリジンガンダムの前腕をプロトタイプ化
GFF版との比較。実は「腕輪」のバランスは、GFFよりオリジンの方がGFF開発画稿に近い。

オリジン版のこの分割線は2015年11月発売のMG版オリジンガンダムには無く、2020年発売のHG版とメタルコンポジット版から追加されている。
恐らくはMG版発売と同じ2015年11月公開のショートムービー「GUNDAM RISING」製作に当たってカトキ氏がデザインワークに参加した際に追加されたものであろう。

ホルスターは原典を踏まえつつ、想像を盛り込む

GFF版に寄せるか悩んだのが右腰のホルスターで、GFF版の元デザインから見た目ではなく意図を継承したホルスターのデザインは非常に魅力的だ。

GFF版プロトタイプガンダムのホルスター
MSV解説書の記述では「ハンドストラップタイプのビームライフル」のホルスター[4] であったが、GFF版では試作型ビームスプレーガンのホルスター[5] とされている。

ただ、これはあくまでビームスプレーガンありきで魅力が発揮されるデザインであり、その為にスプレーガン自作はちょっとキツイ。
故に、ここは原典のホルスターのシルエットを踏襲しつつアレンジを加える。

MSV画稿では、腰スカートの上に増設するような形で2段の箱が乗る形状だが、オリジンガンダムでこれをそのまま行うと張り出しが大きすぎて腕が降ろしづらくなる。
そこで、上段の箱はサイドスカート本体と一体構造のものとし、それだけでは薄すぎるので下半分を増厚して斜めから見たときに画稿の上段の箱のバランス感に見えるようにする。

HGオリジンガンダム改造のプロトタイプガンダムのホルスター
サイズは二回りほど大きいが、形状バランスは元設定を意識した形に。

下段の箱は画稿だとスカート下端から僅かにはみ出す程度だが、設定上はビームライフル用とのことなので長めにアレンジする。
上下段の箱の継ぎ目に留め具っぽいモールドを加え、「下段部分が下端を支点に下へパカっと開いて内部にあるツメ的な機構で銃身部分をホールドする」と云う脳内設定。半日ほどでバランスは決めてしまったのだが、中々に良い感じに出来たと自画自賛。

足首ガードはノズルの幅を稼ぐ

前腕と並んで、プロトタイプガンダムを象徴するディテールである足首ガードの姿勢制御バーニア(アレがバーニアなの、今回MSV画稿見直してて初めて知ったけど)だが、HGオリジンガンダムのキットは足首ガードの縦幅が妙に細く、このままではモールドが入らない。
そもそも貧相でカッコ悪いし。

まずは下端を1mm延長し、その上からエバーグリーンの0.25mm厚の各種帯材を貼ってバーニアの枠部分を一段上げる。バーニアの形に彫り込むより、それ以外を一段上げる方が圧倒的に楽で精度も出る。

HGオリジンガンダム改造のプロトタイプガンダムの足首ガード
C面部分にもプラ材を貼り重ね、キットのダルいエッジを立てている。

バーニア枠を貼り終えたら、上下面にエバーグリーンの2.0×0.5mm材を貼って見かけ上の厚みを増す。更に、外周部分で厚みが無くなる様にテーパーを掛けて削る。比較写真を見ると判るが、貧弱さが解消されるだけでなく、内部の接続軸も目立たなくなって一石二鳥。

HGオリジンガンダム改造のプロトタイプガンダムの足首ガード
バーニアの真ん中に一本横線を入れて、GFF風味に。

あと、おまけと云うか、オリジンガンダム独自要素の脹脛後面の可動式バーニアは蓋を取って剥き出しにして、1/700の魚雷発射管なんかで多少ディテールを付ける。
開発初期の、まだ外装を付けずにエンジンテストをしている段階、と云う表現と、MSV版キットの脹脛外装パネルを外して内部メカを露出させられる表現のオマージュ。

HGオリジンガンダム改造のプロトタイプガンダムの脹脛
MSV版はもっと大胆にガバっと外れるが、まあ雰囲気だけって事で。

余談: プロトタイプガンダムの膝パッドは位置が低い?

以下、設定画を見ると気になるが、製作コンセプトとは外れるので模型には反映しなかった箇所の話。
冒頭のRX-78-1とRX-78-2の相違点の図で青で示した、形状解釈の違い部分。左肩アーマーの正面形が違うのは良く知られているが、膝パッドの位置の違いはあまり言及されているのを見かけない気がする。

RX-78-2の上半身
実は肩アーマーが前後左右非対称。

肩アーマーもよく見ると-1と-2で違うのは左肩前面だけで、右肩前面は両者同じ。RX-78-2の肩アーマー前面は実は左右非対称だ。しかも前面は両者ともに四角形だが、背面稿では五角形の前後非対称。これ、プラモデルでは再現されたキットが無い気がする(まあ、再現したところで全くカッコ良くないので、スルーされてるだけだろうけど
オリジン版RX-78の肩アーマー正面形が五角形なのは実はファーストの背面稿由来か!? (んな訳ゃない

RX-78-1とRX-78-2の下半身比較
画稿視点位置の差は多少あるものの、RX-78-1の方が膝関節と脹脛の位置が若干高い。

判断に迷うのは膝パッド部分で、RX-78-1ではパッド上端と膝可動軸の上端の高さがほぼ揃っているが、RX-78-2ではパッド全体が上にズレている。正確に云えば、パッド自体位置と長さは両者ほぼ同じで、RX-78-1の膝関節と脹脛の位置が高く、RX-78-1ではパッドと脹脛の下端位置がほぼ揃うが、RX-78-2では脹脛の中ほどの位置にパッド下端が来る。

RX-78-1とRX-78-3の下半身比較
両者とも、前面画ではRX-78-1、背面画ではRX-78-2の位置関係になっており、前後で矛盾しているがタイプとしての描き分けは無い。

GFF開発画稿は前面画ではMSV画稿を踏襲しているように思えるが、背面稿ではRX-78-2と同じくパッド位置が高く、整合が取れていない。同シリーズのG-3ガンダムも同じ描き方なので、どうやらカトキ氏のミスで前後の整合が取れていないだけのようである。製品版GFFの膝部分はRX-78-2の単なる色替えで膝パッドの位置は高い

プラモデルでは、MSV版は大河原画稿を忠実に再現している[6] 一方、後発のMG版はRX-78-2と同型[7] である。結局のところ、メーカー側も作画の揺れなのか構造上の違いなのかを決めあぐねているようだ。


RX-78-1とRX-78-2の差異については大体覚えていたように思っていたが、いざ画稿を見てみると思いのほか相違点が多く、特に膝の位置については今回の製作にあたって調べ直していなければずっと気付かずにいたと思う。また、RX-78-2の話ではあるが、肩アーマーが前後左右非対称と云うのも中々衝撃的で、本来、製作とは無関係なのだがどうしても記事に入れたくなってしまった。

特に肩アーマーについてはクリンナップ時の見落としの類ではあろうと思うのだが、これが40年以上も残り続けるとは当時のスタッフも想像だにしていなかったのでは無かろうか。


参考文献

  • 『1/144 プロトタイプガンダム 解説書』バンダイ、1983年 ^1 ^4
  • 『カトキハジメ デザイン アンド プロダクツ アプルーブド ガンダム』角川書店、2003年、28頁 ^2、101頁 ^3、133頁 ^5

参考ウェブサイト


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