GWワンデイモデリング四番勝負・其の一 – 1/700で潜水艦伊16をつくる

時折挑戦しては失敗することでお馴染みの、ツィッタァ上のワンデイモデリング企画。今年はGW特別篇としてお題を絞ってワンデイモデリングに挑むという特別企画にて、水物陸物生物空物の4テーマが提示された。

初日のお題は勝手知ったる(?)水物。前回、砲艦すら1日では無理、と云うのが明らかになったので、今回は更に要素の少ない潜水艦で挑む。流石にこれで駄目だったら、最早1日で作れるフネなど無いだろう。


さてキット選定である。1/700の潜水艦はラインナップこそ多いものの全体に古いキットが多く、現代的フォーマットな定番キットは以前製作したアオシマの「伊19」くらいしかない。流石に一度作ったキットをもう一度は芸が無さ過ぎるのでこれは除外。

あとはいずれも艦齢20~50年ほどのベテランキットだが、今回は岩重多四郎氏の「日本海軍小艦艇ビジュアルガイド3 潜水艦編」のレビューを参考に、タミヤ「伊16」を作ることにした。「伊16」は1972年発売と云う、現行1/700潜水艦キットでも最古参である52年前のキット[1] である。

しかしながらこの「伊16」、現在でもシリーズ屈指の名キットで発売後半世紀以上経た今でもアウトラインをはじめとした考証上の不備は殆どなく、モールドもスケール相応の繊細なものだ。特に水抜き穴のシャープさはとても手加工で原型を作っていた時代のものとは思えないほどである。

タミヤ 伊16の船体モールド
数年前に購入したものだが、金型のメンテも行き届いておりバリやヒケなども皆無。

組立て上の注意点も殆どなく、多少判りづらいのが船底板と船体の接合ライン上にモールドされている艦首発射管ぐらいか。ここはどうしても整形中に歪になりやすいので、一旦パテで半分ほど埋めたのち、ピンバイスとデザインナイフで形を整えている。

タミヤ 伊16の艦首発射管
今だったら、下手に発射管を跨いで分割せず、船底板を底面埋め込み式にしていたと思う。数少ない時代を感じさせる部分だ。

考証的な重箱の隅

艦橋真ん中へんの窓と機銃に挟まれたあたり、「伊47」の写真を見ると明らかに機銃の床面より高い位置に人が立っている。
プラ材で床を追加して双眼鏡を立ててみたが、完成すると床はほぼ見え無ェでやんの。普通に双眼鏡の足をプラ棒で延ばす方が楽だった。

伊47の艦橋: 1944年(昭和19年)
改設計の施された後期型だが、艦橋上部の潜望鏡やアンテナ周りが明瞭に写った非常に資料的価値の高いカット。

艦尾の縦舵は何故か外周の保護枠だけで舵本体が無いのでプラ板で追加。私は加工中に枠を折ってしまったので枠もろとも作り直したが、枠自体の形状は正確なので、丁度>枠に収まる形にプラ板を切り出して埋め込めばOK。

タミヤ伊16の縦舵
キット状態を撮り忘れたのでメーカー写真から。奥が「伊16」で、舵の外枠だけの状態。

あとはひたすら定番工作

潜舵ガードやアンテナマスト、ループアンテナなど、成形の都合で太めなところを細くし、双眼鏡・機銃・主砲はいつものナノ・ドレッド。
追加ディテールとしては、艦首の空中線支柱と網切器を自作している。網切器のノコギリ刃はエバーグリーンのスジボリ入りプラ板「カーサイディング」の0.5mmピッチを薄切りにして再現した。その他、具体的な工作は下記参照のこと。

タミヤ伊16の艦首追加工作
網切器の追加は、簡単な割に見た目の印象が大きく変わるのでオススメ。

タミヤ伊16の艦橋追加工作
前掲の「伊47」などを参考に、潜望鏡下げ・短波無線檣上げの状態にしてみた。方探ループアンテナは潜望鏡を避けて左舷にオフセットされている。

タミヤ伊16の艦尾追加工作
構造上不自然なので、素組でも縦舵だけは追加しておきたいところ。

色々手を入れているように見えるが、開封からここまでで6時間半くらい。ちなみに前回の「橋立」では概ね同時刻にまだ船体と艦橋基部しか終わっていない。

甲標的に架台を足す

甲標的は良い出来だが、取付方向が前後逆(発進すると艦橋にブッ刺さる!)なのと、甲板に芋付けなのがいただけない。ここを深掘りすると、間違いなくワンデイで完成しなくなるので、「ビジュアルガイド」の小型潜航艇の項に掲載されている、一等輸送艦搭載用の甲標的架台の写真[2] を参考に現物あわせで架台を追加した。

タミヤ伊16の甲標的架台
固定帯の位置は良く判らないが、構造的には架台の段差のある箇所にあと2本が妥当か。

良く判らないけど、黒く塗ってみる

大戦前半期の日本潜水艦の塗装については、1942年(昭和17年)4月に呉鎮守府による「黒色塗粧」とすべしと云う訓令があるが、実際にはその数年前から黒色塗装の艦が確認されており、鼠色と黒、いずれもありうる[3] と云う状態。
「伊16」については鮮明な写真が1枚知られているが、光線の加減で全体に黒っぽく写っており、これがどちらの色なのかは断定しづらい。今まで黒い潜水艦を作ったことが無かったので、今回は黒解釈で塗ってみた。

伊16: 1940年(昭和15年)
トリミング違いの写真が複数の書籍に掲載されているが、いずれも写りは似たり寄ったり。

黒はいつもの「黒過ぎない黒」レパートリーの中でも一番明るめのガンダムカラー「MSファントムグレー」、修正マンセルN3に近似の色味のないプレーンなダークグレーである。全面黒なので、暗すぎると陰影が判りづらくなってしまうのだ。
木甲板部も本来同色となる筈だが模型的には塗り忘れにしか見えないので、タミヤエナメルのXF-10「フラットブラウン」をムラっ気をつけてウォッシングし、歩行等で塗膜が摩耗した感じにしている。船底塗料はいつものMr.カラー81番「あずき色」。

船体 N 3 GSIクレオス ガンダムカラー
UG15 MSファントムグレー
甲板 5YR 3.5/2 タミヤカラー エナメル塗料
XF-10 フラットブラウン
船底 5R 3.2/8 GSIクレオス Mr. カラー
C82 あずき色

と、基本塗装まで終わったところで終了刻限の23時。ウェザリングまで行ければベストだったがまあ一応完成と呼べるラインではあるだろう

ワンデイ+α

写真では誤魔化しているが、実は最後のフラットクリア掛けのとき、塗装台のサフ粉が跳ねて固着してしまった箇所がある。補修がてら軽くウェザリングを施した。GSIクレオスのウェザリングカラー「マルチホワイト」を鉛直方向に流れるようにウォッシング。サフ粉を削った箇所は染み込みが大きく、適度にムラになってくれる。暗色汚れは効果が無いのでこれだけ。

緒戦は辛勝、と云ったところか

と云う訳で完成である。

タミヤ伊16のウェザリング
マーキングはピットロードの潜水艦付属の共通デカール。書体もサイズも絶妙なので、デカール単体売りしてほしい。

タミヤ伊16の右舷クリックで拡大。構成要素が少ないため、太いところを細く、と云う定番の追加工作が映える。

タミヤ伊16の左舷クリックで拡大。以前作った「伊19」とのツーショット。船体表面のモールドはキットのままだが、設計時期に約40年開きのある「伊19」と並んでも全く引けを取らないのが驚き。

最終段階で凡ミスをしてしまったが、追加の汚し込みでも時間的にはギリギリ1日分の範疇に収まっており、3度目の正直にて艦船ワンデイモデリング初の成功である。3度目? と思われるかもしれないが、実は「橋立」の前にアオシマ「勢多」を改造して「鳥羽」を作ろうとして挫折しているのだ。

初挑戦でいきなり改造とは、随分と舐めて掛かったものである。約10年前の話だが、若気の至りと云う奴か(別にこの時点でも若くはない


3作通じて判ったのは、1/700と云う縮尺とワンデイモデリングと云うテーマの喰い合わせの悪さ。例外もあるとはいえ、縮尺率が高くなればなるほど、各部の太さ・厚さに「成形上の限界」が目立ちやすくなる。すなわち、素組では看過できない要素が増えてくると云う訳だ。故に「構造物の少なさ」が個性である潜水艦は相性が良い。

逆に、潜水艦と同レベルで構造物の少ない艦種のキットは現状見当たらず、また潜水艦でも基本形・ディテールともに大きな問題を抱えていないのは今回の「伊16」以外だとアオシマの「伊19」「伊156」くらいだろうか。前者は製作済み、後者は特に買う予定も無いので、艦船ワンデイモデリング、今回の成功を以て一旦閉幕とする。


参考ウェブサイト

参考書籍

  • 岩重 多四郎「小型潜航艇」『日本海軍小艦艇ビジュアルガイド3 潜水艦編』大日本絵画、2023年、74頁 ^2
  • 中川 努「日本潜水艦の船体塗色と艦名表示」『日本潜水艦史 世界の艦船 2014年1月号増刊』海人社、2013年、147頁 ^3

いずれも敬称略。


写真引用元

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