GWワンデイモデリング四番勝負・其の二 – 1/72でI号戦車A型をつくる

GWワンデイモデリングの回顧その2、今回はミリタリーモデル界隈で話題の「I号戦車」である。と云っても、5月の時点では当然タミヤI号は発売前で、作ったのはSモデルの1/72。10年くらいずっと積んだままだったのだが、ウォルターソンズのKVシリーズで自信をつけたのでこれなら1日で行けそう、と云う確信のもと積みを崩してみる。


キット概要

同社の1/72AFVは軽戦車に力を入れていて、イギリスの「Mk.VIB」やソ連の「T-26」など個人的に好みなものが多い。以前は都内の模型店で手に入っていたのだが、近年ではアマゾンの大陸系マケプレ業者でしか流通が無く、セキュリティの面で不安があるのが残念。

「I号A型」のキットはシリーズ通番としては90番目となり分割・表現共にこなれたもので、パーツ状態の印象は非常に組みやすそうである。
1/35ばりに分割されていたウォルターソンズの「KV-2」などに較べると、履帯・転輪・起動輪が一体成型された足回りは物足りなく感じられる向きもあろうが、個人的には自然な弛み表現が気に入っており、このスケールとしては適切な密度であるように思う。

基本形状と寸法は、グランドパワー2011年1月号掲載の1/35図面(作図者不明[1] や、同書掲載の原型車であるLa.S.(Landwirtschaftlicher Schlepper: 農業用トラクター)のメーカー図面[2] などと照らし合わせると、目立った欠点もなく、少ないパーツで的確にシルエットを再現しているように思う。

図面寸法の怪

ところで、この「La.S.」の図面、一点不可解な個所がある。各部記載の寸法は、紙の収縮による誤差はあるものの概ね数値どおりの比率で描かれているが、起動輪~誘導輪の3,490mmだけは辻褄が合わない。全長から逆算すると3,000mm前後になる筈で、キットの寸法も概ねそれくらいである。

La.S.(農業用トラクター)シリーズ1のメーカー図面
「I号戦車A型」は生産計画上は「シリーズ2~4」にあたり、細部に変更・改良が加えられているが、基本的な設計はこのシリーズ1で完成している。

足回りの製作

さて、製作である。足回りは前述の通り、履帯周りが一体成型だが、前後サスペンションのボギーを繋ぐ補強フレームが別パーツで足回りに奥行きを感じられる造りになっており、「判ってんな」と云う感じ。ただ、フレームはプラ成形の限界で厚みが目立ってしまうので、キットパーツをゲージにしてエバ-グリーンのプラ棒で薄く作り直した。

SモデルI号戦車 補強フレームの自作
フレームを留める接続軸は適当なリベットパーツが使えればそれらしかったのだが、良いサイズのものが無く、プラ丸棒の輪切りである。

抜きの関係で履帯の凹凸や穴はほぼ省略されているが、履帯1枚が1mm×3mmほどの世界なので個人的には気にならない。実物の写真も引きで見ればそんなもんである。
ワンデイモデリングじゃ無ければ、凹部のリブ状モールドくらいは足した方が良いかもしれないが。

SモデルI号戦車 履帯の比較
実物と同アングルから。凝視すれば物足りなさはあるものの、ピッチが合っているのでモールドは無くとも全体の印象は悪くない。

また、上掲の写真のように、戦場では前後フェンダーのない車両が多いので、切り飛ばして断面を裏から薄く削いでいる。

SモデルI号戦車 フェンダーの切除
元々WW2参戦の戦車の中でも最小クラスだが、フェンダーが無いとより小ぶりな印象が強まる。

車体上部の製作

キットは戦闘室右後部の視察バイザーと戦闘室側面の増加装甲の有無で細かな製造時期を作り分けられるようになっているが、少し説明が足りない
A型は1934年~1936年にかけて1,190輌が生産された[3] が、まず、右後部の視察バイザーは1934年度生産分の内の、初期300輌で廃止[4] された。翌1935年の8月に戦闘室側面の増加装甲装着が始まっており[5] 、存在しうるパターンとしては「バイザーあり・増加装甲なし」「両者なし」「バイザーなし・増加装甲付き」の3つである。両者を備えた車輛は生産されていないので注意(修理再生車輛では「双方あり」の仕様になっている可能性がありうるが、写真では存在を確認できなかった

また、1935年末からは警笛が円筒形から半球形に変更[6] されており、キットでは円筒形警笛が再現されているのでシリーズ2のうち1935年までの生産分と云うことになる。

SモデルI号戦車 車体ディテールの選択
今回は、バイザーなし・増加装甲付きの1935年後期生産分とした。

全体に細いところはちゃんと細く、よく再現されたキットなのだが、何故かアンテナ基部だけが太く、その下を通る配管が途切れてしまっている。エバーグリーンの0.75mm丸棒に置換え、実物と同様の位置関係とした。

SモデルI号戦車 車体上面ディテールの修正
目立たない箇所ではあるのだが、アンテナ基部が細くなるとスケール感が増す。

銃塔の製作

I号戦車の主兵装は「砲」ではなく「銃」なので砲塔ではなく銃塔である。キットは車長用のハッチが別パーツになっており、開状態にしたくなるがハッチ裏のモールドが無いので今回は断念。2丁のMG13はゲート位置が悪く整形が大変なので、ナノ・アヴィエーションのMG15の銃身を多少加工して流用。キットでは左右同寸だが、実際には右銃がやや後ろに下がっている[7] ので、銃身を2mmほど短くしている。

SモデルI号戦車 銃身の換装
本来別の銃だが、小スケールなので小加工でもそれっぽいシルエットにはなる。

塗装

大戦初期のRAL7021ドゥンケルグラウ、所謂ジャーマングレーであるが、日本塗料工業会のペイントカラー検索システムから修正マンセルの近似色が調べられる。それによればN2~2.1あたりのダークグレーで、Mr.カラー40番のジャーマングレーがほぼズバリの色である。だが、当時の写真を見ると戦車兵の黒服に較べてかなり明るく写っているカットが多く、退色が早い塗料だったようである。よって、もう一段明るいN3近似のガンダムカラーのファントムグレーで塗る。前日の伊16と同じじゃん!

褪色したRAL7021 N 3 GSIクレオス ガンダムカラー
UG15 MSファントムグレー

あとは、以前のKVに倣い、足回りを土色ベースにドゥンケルグラウをドライブラシで凸部に乗せる。土汚れまで入れたところで終了刻限の23時。細部塗装まで行ければベストだったがまあ一応完成と呼べるラインではあるだろう……ん、この前も見たな? この流れ

ワンデイ+α

今回も少しばかり延長戦。中々良い感じに仕上がったと思うのは、前照燈の塗装表現。
キャラクターフィギュアのアイペイントの手法の応用で、暗色ベースに下半分に楕円で明色を入れ、中間に淡くグラデを入れた上から、エナメルのクリアーを厚塗りして表面張力でガラスっぽい光沢を出す。これもKVの時と同じ手法だが、今回は奥行き感がより巧く出せたように思う。

SモデルI号戦車 前照灯の塗装
写真を見て奥行きを感じて貰えれば、目論見は成功。

初日の時点では土色の上から掛けるドライブラシは車体色のみだったが、スコップの鉄部や履帯の接地面など金属地肌が出る部分にはマホガニーで更にドライブラシ。銃塔のハッチ横のエッジなど日常的に擦れそうな箇所は、フラットクリアーを吹いた後にメタルカラーのダークアイアンで更に薄くドライブラシ。仄かな光沢が良いアクセントになる。

SモデルI号戦車 鉄部のドライブラシ
銃塔上端のエッジの照りが、個人的には会心の出来。

最後に車長フィギュアを乗せて完成。カイザーミニチュアのもので、本当はベレー帽姿のものが欲しかったのだが、自作すると沼りそうだったので目を瞑る。
搭乗員装備は実際には全身黒ずくめ、といった印象で車体よりもかなり黒く写るのだが、模型的には手抜き塗装にしか見えないので靴の革、服の布、手袋の布と、素材毎に異なるグレーで塗り分けているのだが、完成すると車体色とさして変わらなくなってしまった。次はもっと黒くしよう。

SモデルI号戦車 車長の塗装
できればハッチオープンにして、砲塔の後縁に座らせたかった。

SモデルI号戦車A型 前方
てことで完成。前から見ると、やはりフィギュアの密度に較べて履帯が寂しい感じはするので、多少手を入れた方が良かったかも。

SモデルI号戦車A型 前方
橫から。転輪と誘導輪が素通しで、いかにも頼りない。この華奢な感じがI号の魅力だと思っている。

SモデルI号戦車A型 前方
後ろから。本体は僅かにツヤ感のあるスムースクリアー、車長の被服は通常のツヤ消し仕上げ。スムースクリアーの光沢感が砲塔に良い感じの硬質な反射を生んでくれた。

思わぬ苦戦

伊16同様、完全にワンデイでは完成せず、ギリギリ及第点といったところか。総作業時間はおよそ12時間、朝から始めてもワンデイに収まるか微妙なところだ。
もっと手数が多かった筈のKV-2が11時間で完成していたので、これは純粋な老いだな。


表現も分割も20世紀の1/35キットをそのまま縮小したような印象だったウォルターソンズのKVシリーズに較べると、SモデルのI号は足回りなど大胆に一体化しつつも排気管カバーやOVMの一部をエッチング化するなど、1/72としての最適化がより進んでいるように感じられた。こうした繊細さがI号の華奢なイメージとマッチしており、ミニスケール特有の諦めや割り切りが感じられない好キットだと思う。

SモデルI号戦車 車長の塗装
ウォルターソンズKV-1とツーショット。スケール違いかと思うほどサイズが違う。

もししっかりと手を入れるとすれば、前述の通り、抜きの関係で省かれている履帯の表面モールドの再現が効果的だろう。また、当時の写真を見ると銃塔ハッチから車長が身を乗り出しているカットが多く、フィギュアを乗せたくなるところだが、現状、I号が活躍した電撃戦期のベレー帽姿の戦車兵キットは見たことが無い。昨今、個人ディーラーによる3DPフィギュアが物凄い勢いで充実してきているので、ここらで表情豊かな大戦初期戦車兵フィギュアの登場を願いたい。


参考書籍

  • 後藤 仁「ドイツI号戦車シリーズ」『グランドパワー 2011年1月号』ガリレオ出版、2011年、61頁 ^1、27頁 ^2、41頁 ^3、42頁 ^4 ^5 ^6
  • 、38頁 ^7

敬称略。

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