ウィーゴ本体は前回で完成した。
今回は表題通り、ひたすら牛を眺め、牛を塗るだけの回。
連載2回目で早くも脱線甚だしいが、ウィーゴは本体を弄るより、周辺小物 (?) やディスプレイに凝る方が、よりキャラクター性が引き立つと思うのだ。
牛
ターンエーと云えば牛、これは欠かせない。
このカラーリングを思いついたときに、即座に牛を曳かせようと思ったのだが、意外にも (?) タミヤの動物セットに牛は無い。
代わりに見つけてきたのがマスターボックスの動物セットで、牛と山羊がセットになっている。
マスターボックスの動物セット。多少のすり合わせは必要だが、組んでみた第一印象はなかなか良い。
産湯を使った頃からインドア派の私は牛についての知識など勿論皆無なので、このキットの出来の良しあしが判らない。そこで、少し牛について調べた。
乳牛の9割はホルスタイン、ホルスタインは大きく四角い
ターンエーガンダム劇中に出てくる牛は白黒なので恐らくホルスタイン種、それくらいは判る。
そして、マスターボックスの乳牛も塗装指定では白黒模様なので、これもホルスタインだろう。本当に?
20世紀から現代にかけての乳牛の世界を大まかに調べてみると、乳牛5大品種、と云うものがある。まずホルスタインとジャージー、この辺は聞き覚えがある。残り3種がエアシャー、ブラウンスイス、ガンジー……らしい。
このあたりの説明が判りやすくまとまっているが、世界の乳牛は概ねこの5大品種であり、中でもホルスタイン種は日本国内では全乳牛の9割前後を占めるらしい。
とすれば、キットも当然、5大品種のいずれかと考えるのが妥当である。
写真で見比べると判りやすいが、ホルスタイン種は尻の尖り方と、頭の大きさに特徴がある。また、大柄な分、四肢が長い。
他の品種に比べると、尻が尖っている分四角く見え、首の太さに対して頭が大きいのだ。
乳牛の代名詞、日本の牧場でもよく見かけるアメリカ型ホルスタイン。[1]
四肢のバランスや顔の輪郭などを後掲の別品種と比べてみると、明らかにアメリカ型ホルスタインの体型だ。
マスターボックスのキットは、そうしたホルスタイン種の特徴を見事にとらえており、塗装だけで他品種にするのは難しそう。
同じ乳牛でも例えば写真の茶色の方のジャージー種だと、頭身が小さく目が大きい。
茶色い体のジャージー種。全体に寸詰まりで可愛らしい印象だ。[2]
これが例えばジャージー牛だと、胴体に比べて四肢が短く頭も小さいため、仮にマスターボックスのキットを茶色く塗っても、決してジャージー種には見えない筈。
ホルスタインでも特に、四肢が長くスラリとした体型は乳用特化のアメリカ型の特徴を反映しており、写真のイギリス型として使うなら、全体に寸詰まりにして、やや子供っぽいバランスに寄せるとそれらしくなると思う。
ジャージー種ほどではないが、四肢が短く小ぶりなのがイギリス型ホルスタイン。[3]
キットの牛には角があるが、現代の畜牛には基本的に角が無い。
これは牛舎でぶつかったり喧嘩したりして他の牛を傷つけないようにするため、早い内に切ってしまうのだそうだ。20世紀中ごろの写真などを見ると角がある乳牛の写真もあり、大戦期のジオラマなどに使う際は、角ありの方が昔っぽい雰囲気が出ると思う。
写真は1950年の乳牛。鹿と違い、牛は雌にも角が生える。[4]
ピンセットで乳首を植える
キットがホルスタインであるのが確定したところで製作。
このキットの最大の特筆点は「乳首」である。中央の分割線を嫌って、もしくは雄も作れるよう、乳房を別パーツ化したのは判る。合理的な判断だ。
だが、このキットはそこから更に乳首を別パーツ化し、1本ずつ乳房に植える設計なのだ。意味が判らない。
愛か狂気か、謎の別パーツ化乳首。
乳牛の乳首は重力に従いほぼ垂直に垂れており、しかもやや先細りなので、乳房と一体成型でも何ら問題ないのだ。いや寧ろ、根本の継ぎ目消しを考えると一体にして欲しい。
だが、このキットは敢えて別パーツ化した。本体の見事な造形を見る限り、設計者はそんなことはお見通しの筈。
そこに、合理性を超えた念だか愛だか良く判らない謎のエネルギーを感じるのは、私の考えすぎだろうか。
ともあれ、実際に組んでいくとよくできており、前述の乳首や、胴体分割線にやや消しづらい合わせ目ができるが、そこを丁寧に処理してやると素晴らしいプロポーションのホルスタイン牛ができる。
ただ、キットの表面は平滑すぎて、色を塗ったとき焼き物の様な質感に見えてしまう。
そこで、溶きパテを全体に塗りつけ、生乾きの時に毛並みの流れに沿って歯ブラシを叩くように当て、毛並みの乱反射する表面の感じを再現した。
牛の場合は毛足が目立たないので、全身くまなく施さず、ところどころ見える位で良いと思う。
ブラシを当てていると粒状にダマが浮くので、乾燥したら荒目のペーパーで軽く撫でてダマを落とす。
普通に削ると毛並みが消えてしまう、触れるか触れないかの距離からペーパーの目でダマをひっかける感覚で。
キットと比べるとこんな感じ。
ホルスタインは、白黒だけど白黒ではない
一発塗りは間違いなくミスるので、極細の水性ペンで模様を下書きする。
両耳、尾の付け根、両目の周りあたりは高確率で黒もしくは茶色に、尻尾と四肢の先端と、腹、鼻筋あたりは高確率で白になるようだ。
水性ペンなので、上手くいかなかったら水で落として描きなおし。
色は、先のウィーゴで使用したアイボリーとRLM 70。凄く手抜きっぽいが、画像検索して出てくる牧場の牛の色合いは本当にそんな感じの少し黄色くくすんだ色なのだ。
間違ってもドンキで売ってる牛柄ラグのような真っ白&真っ黒ではない。
前回も書いたが、温かみのある黒としてMr. カラーのRLM 70は非常に使い勝手が良い。
さらに下の写真のように、ホルスタインの白い毛並みは一部が黄色く変色する。
関節やしゃがんで土に擦れるところ、あと、尻尾の房や前髪など毛足の長いところから色がつく。
ここはタミヤエナメルのダークイエローやカーキなどをスミイレくらい希釈し、境目をぼかしつつ塗ってゆく。
品評会の写真ではきれいな白黒だが、普段の牛はこんな感じに黄ばんでいる。[5]
前掲の写真を参考に、「前髪」や足回りを汚す。
鉛板で口輪とリードをつけ、鉄道模型用の芝シートに載せて完成である。
牛と並ぶと、ウィーゴが大きく見える。
自然光撮影は色合いに味わいがあって良いね。
と云った訳で、初メカトロウィーゴ、完成である。普段、地味で殺伐としたものばかり作っているので、こうした牧歌的でカラフルなものを弄っていると普段使っていない部分の脳が刺激された気がする。
私の作品に限らず、メカトロウィーゴを作る人は大喜利的に様々なネタになぞらえて遊ぶ人が多い。兵器系スケールモデルは勿論、同じ架空世界のメカニズムであるガンプラとも違う、平和でおおらかな、懐の深い世界はなかなかに居心地が良く、沢山作って並べたくなる。
ツイッタアで#ウィーゴや#メカトロウィーゴで検索すると、その世界の広がりの一端を垣間見れるので、興味が湧いた方はぜひ手に取ってみて欲しい。
写真出典
- 「Holstein Friesian cattle – Wikipedia, the free encyclopedia」、2016年5月閲覧^1
- 「The Jersey Cow | guernseydonkey.com」、2016年5月閲覧^2
- 「Livestock Supplies – Agent for Quality Cattle」、2016年5月閲覧^3
- 「Winteringham Manor Farm Dairy Cattle」、2016年5月閲覧^4
- 旭川3sen6gouの まりあ「1774. 旭川・見つめるホルスタイン – 撮って置きの日々」、2016年5月閲覧^4
全て敬称略。