模型の塗装における空気遠近法について、法則化できないか考える

模型の塗装における空気遠近法について、法則化できないか考える

先日、空気遠近法について調べていたところ、以下のような資料をみつけた。

松山 祐子・山下 三平「景観における見かけの色の推定と調和について

対象物から離れた際、どういった風に色が変化するかを集計し、そこから距離ごとの色の変化の公式を導き出したものである。

これを、模型の塗装に応用できないか、と考えた。


例えば、50cmの距離で1/700の模型を見た場合、350m先にある実物と同じ大きさに見えるはずである。
ならば、上記資料に基づき、350m離れた場合の変化を、本来の塗色に適用すれば、見かけ上は遠くにある本物と同じ色に見えるのでは? というのが出発点。

上記論文を読んで、公式の意味がちゃんと理解できる方はそれでいいのだが、私の知能ではさっぱり判らない。
そこで、文中のグラフにある値を修正マンセル値に変換して、簡単に理解しようというのが今回のお題。

変換ルールは下記の通りだが、面倒な方は読み飛ばしていただいても構わない。

数値を細かくしすぎると感覚的に変化が掴み辛いため、色相値は2.5刻み、明度・彩度値は0.5刻みで四捨五入した。
例えば、「6.2R5.4/13.2」なら「5R5.5/13」といった按配だ。
修正マンセル値とはなんぞ? という方は、以前の記事Wikipedia先生などを参照されたし。

また、距離0mでの値は、グラフ中の値と、論文の著者が色票から測色した値の数値がややずれているようだ。
そういった場合、今回はグラフ内の変化率を視るのが目的のため、明らかな誤記以外はグラフ内の座標値を優先し、前後する距離の値より著しくずれている場合は、前後の値の中間値に寄せて計算した。

準拠するグラフは、実測値の分布をL*a*b*表色系の値で記録した「図-2 カラーカードの見かけの色(平均値)の変化」である。
当初、そこから導き出された推定値による「図-4 実測値と推定値の関係」を使用するつもりだったが、こちらはXYZ表色系で記載されているため、手元の表色系変換ツールでマンセル値に置き換えた結果、僅かな誤差で著しく変換結果がずれてしまう。
よって、後者準拠では妥当な結果が得られないと判断した。

試算してみるスケールは、1/48、1/72、1/144、1/700である。
これは今後、自分で作るつもりがある模型の縮尺が上記だったためであり、他の代表的な模型の縮尺である1/35や1/100などが含まれていない事に他意はない。

で、まとめてみたのが下記の表。

1/1≒0m 1/48≒24m 1/72≒36m 1/144≒72m 1/700≒350m
白: N9.5 N9.5 N9.5 N9.5 N9
明るい黄: 7.5Y9/7.5 7.5Y9/7.5 7.5Y9/7.5 7.5Y9/7.5 7.5Y8.5/7
鮮やかな黄: 7.5Y8/14 7.5Y8/14 7.5Y8/14 7.5Y8/13.5 7.5Y7.5/12
明るい緑: 5G8/6 5G8/6 5G8/6 5G8/6 5G7.5/5
明るい赤: 2.5R7/7.5 2.5R7/7.5 2.5R7/7.5 2.5R7/7.5 2.5R7/6.5
鈍い黄: 5Y7/3 5Y7/3 5Y7/3 5Y7/3 5Y7/3
暗い黄: 5Y6.5/7 5Y6.5/7 5Y6.5/7 5Y6.5/6.5 5Y6.5/5.5
明るい青: 2.5PB6.5/6.5 2.5PB6.5/6.5 2.5PB6.5/6.5 2.5PB6.5/6.5 2.5PB6.5/6
鮮やかな緑: 5G5.5/10 5G5.5/10 5G5.5/10 5G5.5/10 5G5.5/8.5
鮮やかな赤: 5R4.5/13.5 5R4.5/13.5 5R4.5/13.5 5R4.5/13.5 5R4.5/12
鮮やかな青: 2.5PB3.5/13 2.5PB3.5/13 2.5PB3.5/13 2.5PB3.5/12.5 2.5PB4/11
鈍い緑: 5G3.5/2 5G3.5/2 5G4/2 5G4/2 5G4/2
鈍い赤: 5R3.5/3.5 5R3.5/3 5R3.5/3 5R3.5/3 5R4/2.5
暗い緑: 5G3/4 5G3/4 5G3.5/3.5 5G3.5/3.5 5G3.5/3
鈍い青: 2.5PB3/3 2.5PB3/3 2.5PB3.5/3 2.5PB3.5/3 2.5PB3.5/3
暗い赤: 2.5R2.5/6 2.5R2.5/6 2.5R3/6 2.5R3/6 2.5R3.5/5.5
暗い青: 2.5PB2/6 2.5PB2.5/6 2.5PB2.5/6.5 2.5PB2.5/6.5 2.5PB3/6.5

印象としては、1/700程度では意外に変化が無いものだな、というのが率直なところ。
1/48だと、今回の集計精度では誤差の範囲に収まってしまう。

つまり、1/24のカーモデルなんかは、実車の色見本を用意して同じ色を調合しても、スケールエフェクト的には決して間違いではないということ。
ただ、対象物の面積が少ないと、彩度が落ちて見えるため、多分、同じ塗料を塗った模型を本物の上においてみると模型の方がややくすんで見えるはず、という別な問題が有るのだが。

それはさておき、上記から、模型の塗装に反映できる程度の大きな変化について法則性を見出してみると、

  • 色相: この程度の縮尺では、色相の変化はほとんど無い
  • 明度: 変化が顕著なのは明度3.5以下の低明度域の色で、全体にやや明るくなる
    また、明度8以上の高明度域では、僅かに暗くなる
  • 彩度: 彩度が上がるにつれ、彩度が顕著に下がる
    また、大気による散乱によって青みを帯びる影響からか、特に黄色系の彩度が下がりやすい

それらから導き出した私の結論。

1/700位までの縮尺率では、空気遠近法を厳密に再現しても、ほとんど判らない。

……まあ、それだとあまりにも面白くないので、そこから演出として遠近感を強調した塗装をする場合、配色に以下の様な法則を持たせると説得力を持たせられるのではないだろうか。

  • 色相は元の配色を維持
  • 明度は、暗い色を明るく、明るい色は僅かに暗く
  • 彩度は、鮮やかな色をやや鈍くし、特に、黄色を抑え目にする。
    逆に、青系については、敢えてそのままの彩度を維持するという選択もあり。

一言で云えば、真っ白、真っ黒、原色は避けよう、ということ。
って、これは数値を取るまでも無く、昔から模型誌などでよく云われてたことだねえ。

意外だったのは、中明度域では明度がほぼ変化しないなので、スケール感を出すためには、「全ての色を明るめにする」んじゃなくて、「暗めの色を中心に明るめにする」って事かね。

うむむ、集計に手間が掛かった割には、割と凡庸な決着に落ち着いて、つまんねーの!!


参考ウェブサイト

全て敬称略。

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