各社の14cm単装砲パーツの出来を比較してみた – 1/700で天龍型軽巡をつくる: 9

各社の14cm単装砲パーツの出来を比較してみた

今回、主砲の50口径三年式14cm単装砲 (以下、14cm単装砲) は、砲身が細くモールドのシャープなピットロードの「新 WWII 日本海軍艦船装備セット [3]」(以下、新PT) のものを使う予定だった。

しかし、新PTの14cm単装砲は、1番砲以外には不要な後端の防水鈑を削り取ると、妙に小さく見えるのに違和感を覚えた。

そこで、その新PTをはじめとした、各社から発売中のキットの同砲の寸法・形状について比較してみた。


比較の条件

最終的な目的としては、今後製作予定の14センチ単装砲を装備する各艦の砲を、できるだけ全体のバランスの良いもの1、2種くらいに統一したい
そのための、アフターパーツまたは、部品取り用キットの選定を目指すものとする。
また、ディテールの密度よりも、全体寸法と形状把握を優先とする。

より詳細な条件は以下の通りだが、面倒なら読み飛ばしていただいても構わない。

上記理由にて、供給が不安定なレジンキット海外製アフターパーツ、キットあたりの入数が少なく数を揃えるのが困難な特設艦艇のキットなどは比較対象から除くものとする。

学研の「歴史群像 太平洋戦史シリーズ32 軽巡 球磨・長良・川内型」(以下、「学研本」) 掲載の「阿武隈」の公式図面の側面図[1] および「由良」「鬼怒」の砲盾の図面[2]、今日の話題社の「海軍艦艇公式図面集」掲載の「川内」の公式図面の上側面図[3] を基にサイズと形状を判定。

いずれも印刷状態が悪いため、最終的な比較や記事内の図版には、それらに合わせてサイズ・形状を調整した、旧版「日本巡洋艦史」掲載の「多摩」の図面[4] を用いた。

また、学研本で指摘されている、2種の天蓋形状については、便宜上、「鬼怒」のような平らな天蓋を「平天蓋型」「由良」のような上面に折れ角があるものを「折れ天蓋型」と仮に呼称する。
「鬼怒」の砲盾の図面では、天蓋後端が台形に張り出してい描かれているが、写真で同様の形状のものが確認できなかったため、張り出しは検証項目からは除いた。

対象キット

WLシリーズの「球磨」「阿武隈」「川内」および、ピットロード (以下、「PT」) の新旧装備セット
それ以外にも、私が知る限り、ハセガワの「天龍型」やフジミの旧5,500t軽巡、PTの「大井」「北上」、各社の特務艦・特設艦艇に含まれているパーツがある筈だが、「天龍型」とフジミ軽巡については敢えて部品取りのためにキットを買うような品質ではないこと、その他艦艇では、前述のとおり軽巡の備砲として数を揃えるには経済的に無理があることから除外した。

本稿では便宜上、E品番の「WW-II 日本海軍艦船装備セット」を「PT旧装備品セット」または「旧PT」、NE品番の「新 WW-II 日本海軍艦船装備セット」を「PT新装備品セット」または「新PT」と略記する。

実際に比較してみる

まずは、下記の比較写真を見ていただこう。

1/700 14cm単装砲の各社パーツ比較 ご覧のとおり、見事に各社寸法形状がばらばらである。

以下、開発時期の古い順に見ていこう。

タミヤ「球磨」
1973年発売

品番: 31316
定価: 2,376円 (税込)

7基入り / 平天蓋型
1基あたり単価: 339円 (税込)
「球磨型」だけでなく、「阿武隈」を除く同社「長良型」も共通。
古い割に意外とよく外形を捉えており、砲盾は僅かに寸詰まりだが無視しても気にならない程度
砲盾と砲架の関係が実物と異なり、後方から見ると違和感がある。
砲身はやや太く、0.5mmほど短いが、機銃の換装やマストの新造をしないなら、このまま活かすのも手。
PT旧装備品セットII
1990年代前半発売?

品番: E-05
定価: 1,080円 (税込)

6基入り / 平天蓋型
1基当たり単価: 180円 (税込)
1/700プラパーツでは恐らく初めて、砲盾と砲架の関係性を正確に再現した14cm単装砲。以降、比較するキットは、全てこの構成となった。
砲盾は全体的に大きめで、砲身は比較中最も太い
砲身の全長は正確だが、砲盾が大きい上に取付位置も前すぎるため、寸詰まりに見えてしまう
形状的には難が目立つが、1基当たりの単価は最も安いので、特設艦船のスクラッチなどで安く上げたい場合には役に立つはず。
タミヤ「阿武隈」
2007年発売

品番: 31349
定価: 2,376円 (税込)

8基入り / 折れ天蓋型
1基あたり単価: 297円 (税込)
「球磨型」からの流用ではない完全な新規開発品で、砲盾と砲架の関係が正確に再現された。
また、「球磨」と同価格で1基余分に入っているので、少しお得。
砲盾は、寸法面ではかなり正確。平面形も適切だが、何故か側面形後端が斜めで、後方下端の丸みも省略されている。
「球磨」では正確に再現されていたのに何故?
今回の比較中では唯一の「折れ天蓋型」である。
「球磨」同様、砲身はやや太く、0.5mmほど短めで、防水布はなし。
アオシマ「那珂1943」
2008年発売

品番: 352
定価: 2,160円 (税込)

7基入り / 平天蓋型
1基あたり単価: 308円 (税込)
同年に発売された他の「川内型」各艦とも共通。
砲盾は「平天蓋型」をサイズ・形状ともほぼ完璧に再現しており、今回の比較中では最も砲盾の完成度が高い
「球磨」や「阿武隈」と同様砲身がやや太いが、砲身基部の防水布が再現されており、全長は正確
PT新装備品セット3
2011年発売

品番: NE03
定価: 2,160円 (税込)

4基入り / 平天蓋型
1基あたり単価: 540円 (税込)
砲盾の形状把握はかなり的確だが、縦横高さ、全てが小さい
細部の再現度は今回の比較中で最も高く、後端の防水鈑まで表現。防水鈑を付けた状態であれば、さほど小さい印象はないか?
砲身は正確に細く、防水布の表現も抜群だが、全長が1mm程短い
幸い、砲身はそのまま、砲尾を延長すれば適正寸法となるが、その場合、砲盾も併せて修正しないと盾の後端から砲尾が大きくはみ出でしまうので悩むところ。

総評

タミヤ「球磨」と旧PTは、外形把握や構造の部分で、トレードオフの関係にあり、今日的には、いずれもそのまま使用するにはやや難がある。

今世紀に入って発売されたタミヤ「阿武隈」とアオシマ「川内型」は、いずれもかなり高いレベルでまとまりがよく、寸法と外形の正確さを求めるなら、自ずとこの2者に候補が絞られる。
また、この2者でほぼ同品質の「平天蓋」と「折れ天蓋」の使い分けができる。

1/700 14cm単装砲の各社パーツ比較 その2 後部砲座に仮付した状態での比較。角度がイマイチ合ってないのはご勘弁。
「天龍型」では、特に後部操舵室との間隔や天井高との関係性が目立つ。

新PTの砲身の細さやモールドの細やかさは圧倒的だが、前述のサイズ問題ゆえ、どうしても実物の写真と見比べると、周囲のスカスカ感が気になる
特に軽巡は各艦とも前後にタイトなレイアウトなので、意外に砲が小さいと似ていない印象になるのだ。

逆に云えば、給油艦や特設艦艇などの艦首尾にポツンと砲座が設置してあるような場合、砲座とのバランスを調整してやればさほど小ささが目立たず、最高の14cm砲になるだろう。

正確な14cm単装砲製作のための最適解を考える

金属素材等で砲身の置換を厭わない人なら、下手に新PTを切り刻んで延長するより、むしろ「阿武隈」か「川内型」ベースの方が、外形が正確なものを作りやすい

新PTと比べると気になる砲身の太さだが、「阿武隈」と「川内型」のキット間では、ほぼ完全互換といってよい程に太さが揃っているので、キット同士の整合を取るだけなら、そのままでも問題ないと思う。
金属化は、機銃やマストなど、他の箇所をどこまで繊細にするかによって判断することになるだろう。

もっとも、金に糸目をつけないなら、新PTの砲架・砲身に「阿武隈」か「川内型」の砲盾を付けると、少ない手数で正確なものを手にできるが、私には無理 ()

で、今回の「天龍型」はどうするか。

前述のとおり、折角高価な新PTを揃えていたのだが、仮組状態でついていた防水鈑を削ってしまうと、どうも新PTはバランスが悪い、というのが今回の記事の発端なので、今回は写真から、少なくとも「天龍」は「折れ天蓋型」であることが読み取れる[5] ため、「阿武隈」の14cm単装砲を使用することにした。
8基入りゆえ、1箱で2隻分揃うのも好都合だ。

次回は、タミヤ「阿武隈」の14cm砲のパーツを基に、実際に工作を進めてみたい。


さて、1基あたりの単価比較の際、部品請求の価格で計算すべきでは? と思われた方もいるかもしれない。だが、今回は敢えて部品請求については触れていない。

アオシマは説明書にも明記しているが、部品請求は本来、キット製作の際の破損・紛失へのサービスであり、一般の通販とは位置づけが異なる。

それに乗っかって部品取り目的で購入した結果、本来サービスを受けるべき人に在庫切れで部品が届かないといった事になるのは嫌だし、正規でキットを購入すれば、それは商品としての販売実績となり、メーカーの次回作開発へのお布施にもなろうというものだ。

当然、部品請求よりは高くつくので、この考えを押し付けるつもりはないが、積極的に部品請求を奨めたくはない、と云う訳。
欲を云えば、フジミのように、既存キットの艤装ランナーだけ別売で一般流通してくれると嬉しいのだけど。


参考書籍

  • 『歴史群像 太平洋戦史シリーズ32 軽巡 球磨・長良・川内型』学習研究社、2001年

    • 「軍艦『阿武隈』艦内側面及び上甲板諸艦橋平面」115頁 ^1
    • 「クローズアップ写真選」60頁 ^2
    • 「『天龍』『龍田』」74頁 ^5
  • 福井 静夫『海軍艦艇公式図面集』今日の話題社、1992年、52-53頁 ^3
  • 「軽巡『多摩』」『日本巡洋艦史 世界の艦船 1991年9月号増刊』海人社、1991年、146頁 ^4

全て敬称略。

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