MDプリンター代替としてのテプラデカール – テプラデカールの研究: 序

先日、ツィッタァでテプラデカールなるものを見かけた。

これが緩やかに絶滅に向かっているアルプスのマイクロドライプリンター (以下、「MDプリンター」) の代替になりそうで、手を付けてみることにした。


テプラデカールとは、ツィッタァ上でチキン ユウ氏が発表している手法で、キングジムのラベルライター「テプラ」のテープカートリッジに改造を施し、テープのかわりに市販デカールシートへ印刷するものである。

マイクロドライプリンターとテプラによるデカール出力比較 いずれも細かいコーション類は既製品。多少の工夫は要るが、テプラでMDプリンターと遜色ない仕上がりの印刷が可能。

現在、MDプリンター以外にも家庭用プリンターでデカールを刷る術はいくつかある。そこで、今回はまず、各種プリンターによる手法の現状比較と、その中におけるテプラデカールの立ち位置について考えてみる。

自作デカール用プリンター概史

従来、自作デカールとしては熱転写方式を用いるアルプスの「MDプリンター」が定番であった。
だが、10年ほど前に製造が終了[1]し、また、ドライバーがウィンドウズ7 32ビット版[2] までにしか対応しておらず、現在新たに印刷環境を構築するのが難しい

※ ウィンドウズ7 64ビット版で動かす裏技もあるが、機能が大幅に制限され、デカール印刷に重要な「ページ合成」「特色印刷」ができない。[3] これらの全機能を使うにはXPか32ビット7環境が必要。仮想マシン、もしくはネットワークから切り離されたPCを用意し、中古のプリンタ本体をヤフオク等で買えば不可能ではないが、インクカートリッジも3年前に製造終了[4] しており継続運用は厳しい。

後述するインクジェットやレーザー印刷に較べると最大の利点は標準仕様で白やメタリックが刷れることで、しかも同じ個所に2重、3重に印刷を重ねられると云う特性から隠蔽力もある程度得られるのが魅力。また、後述の他方式に較べると、市販デカールシートのほとんどに対応していると云う、用紙の入手性の優位がある。

一方でインクリボン方式故に混色とグラデーションに弱く、それらの印刷では他方式よりアミ点が目立つと云う欠点がある。
混色アミ点については、ベタ塗りの各色を重ね刷りすることによる中間色表現 (例えば、マゼンタの上にイエローを重ね刷りしてオレンジなど) と云う裏技もあったが、当然ながら他のプリンターのような自由な色表現には及ばないものであった。

アルプスマイクロドライプリンターによるデカール出力例 白の隠蔽力を得るために2重印刷したもの。刷りを重ねるほど隠蔽力は上がるが、その分、縁欠けや版ズレで歩留まりは悪くなる。それでもこの程度細かな字が刷れる。

MDプリンター以外の自作デカールとしては、 インクジェット方式のプリンターで使える用紙がある。ハイキューパーツの「家庭用インクジェットプリンターデカール用紙」やケイトレーディングの「ミラクルデカール」などで、インクジェットプリンターで印刷した上からクリアコートしてインク面を保護する構造。
環境構築の容易さとインクジェット方式ならではの発色の良さが魅力だが、クリアコートに漏れがあるとインクが水で溶けてしまう不安定さが懸念事項。

インクジェットプリンター用紙のもう一つの系統としては、ガイアノーツの「おうちdeデカール」、エーワン「自分で作るデカールシール」にみられる反転方式がある。
これは、鏡像印刷したデカールシートの上から糊フィルムを貼りつけて転写すると云うもので、先の方式より安定性はあるが、致命的な問題として位置合わせ時点で印刷面が見えず、裏紙状態で位置決めせねばならないこと。

「おうちdeデカール」は以前、「樅型駆逐艦」を作った際に試してみたが、位置決め問題の対策として、一旦クリアデカールに転写してから貼ると云う手を使ったが、デカール2枚分の厚みとなるため段差が目立つ場所には使いづらい。

インクジェットプリンター+「おうちdeデカール」による出力例 砲座の放射状の線がデカール。このように中間色かつグラデーション状に線が細く消えるような表現はインクジェット方式が得意とするところ。

レーザープリンターによる印刷もインクジェット同様に専用用紙による対応で、ハイキューパーツの「クリアデカールTH」や、ファインモールド「デカールセット」などがあり、インクジェット方式と異なりクリアコートせずとも水で溶けないのが魅力。
また、リコーの一部機種に限られるが、ハイキューパーツが白トナーを発売しており白印刷も可能。現行機種の「C260L」が実売2万円弱で、以前に較べるとインクジェットに対しての割高感はなくなってきた。 ただ、白トナーの価格が3万5千円と値が張るのがネックか。

MDプリンター後継としてのテプラデカール

さて、ここからが本題。現状では上記のように一長一短あることから、白やメタリックなどの単色刷りではMDプリンター、痛車などの微妙な色調表現やグラデーションを求められる場合はインクジェット、1台で総てを賄おうとするならレーザープリンター、と云う棲み分けだった。
だが、MDプリンターについては前述のとおり、メーカーサポートやサプライ品の終了と共に緩やかな滅びを待つ状況にある。

そこに登場したのがテプラデカールで、最大の強みは本体・カートリッジ共に供給が安定している点。恐らくはウィンドウズ10の次世代以降のOSでもサポートが続くであろうから製作環境での不安もない

特性としてはMDプリンター同様の熱転写によるインクリボン方式のため、表現上の長所短所もほぼ同様。ゆえに、テプラデカールはインクジェット方式やレーザー方式のデカール印刷の代替にはならない

更に、MDプリンターと異なり重ね刷りが出来ないため、混色やグラデーション表現が一切できず、基本的には各カートリッジの印刷色単色での印刷となる。
隠蔽力や混色のために多層仕上げとするにはデカール自体を枚数分重ねる必要があり、デカールの段差が目立ちやすいのが辛いところ。

マイクロドライプリンターとテプラによるデカール出力比較 ふたたび比較写真。MDプリンターは2重刷りで、テプラデカールはデカール自体の2枚重ね。細かな文字はズレが目立ちやすく、印刷ノウハウの他、デカールの位置合わせ技術も求められる。

あと、地味に痛いのがMDプリンターで刷れた金属色の金と銀のうち、テプラで刷れるのは金のみ。模型的には単に銀色としての表現の他、濃色の上に淡色を貼る際の下地としても使えるため、あると何かと便利なのだか。こればかりは気長に発売を祈るしかない。

先ほど基本的には単色、と云う含みのある書き方をしたのは、前述のチキン氏による応用法でホログラム印刷が成功しており、今後もしかしたら複数色印刷も実現するかもしれない、と云う希望と可能性もあるからだ。 

MDプリンターに比べていくらかの制約はあるものの、供給の心配がなく、登場したばかりで色々進化の余地があるテプラデカール、特にMDプリンターを欲するも入手が叶わなかった諸兄にはぜひ試して頂きたい。


本当は試作レポートまで載せる予定だったのだが、例によって前置きが長すぎて書ききれなかった ()
次回はちゃんと実践編、乞うご期待?


参考ウェブサイト

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