今回は今までのスクラッチの工程のダイジェスト版。
船体の工作辺りは、全くゼロから作り起こしになるので大変そうだが、見た感じよりは楽。
そして、逆に船体さえ形になれば、後は船体をゲージにしてキット改造と同じ感覚で進められるので、興味が湧いたら、ぜひ挑戦してみて欲しい。
何故、キットがあるのにスクラッチ?
ハセガワのキットとの比較、クリックで拡大。船体平面形の修正が困難だったのが、スクラッチに踏み切った最大の要因。
- 当初はキットを基に製作を試みたものの、年季相応に全体の造形から小物パーツのキレまで総じて難があり、それらを改修・交換していると、却って手間がかかると判断し、スクラッチに踏み切った。
船体
画像クリックで拡大。素材の使い分けは、強度や加工性だけでなく、表面をグレーにして表面処理をしやすくする意図もある。
- 平賀譲 デジタルアーカイブで公開されている、船体部分の側面図および主要断面図を基に平面形を推定。
- その後、アジア歴史資料センター (以下、「アジ歴」) にてシェルター甲板の一部の公式図を発見、これから作ろうという方はそちらも併せて参照していただくと、より正確な平面形が導き出せるだろう。
- パテでエッジや舷窓が欠けるのが嫌だったので、各種プラ材による箱組と積層で構築。
- 決定的証拠はないものの、「龍田」は甲板主要部のリノリウムが首尾線と平行に敷かれていた可能性が高いと思われるので、試しに再現してみた。
- 舷窓は写真からの推定。舷外電路は一切写真が見つからなかったため、同時期・同工廠で舷外電路を装備した「名取」の写真からパターンを推測した。
艦橋・上部構造物
奥から、ハセガワのキット、「天龍」、「龍田」。ここから「龍田」は篠崎氏の考証を元に、前端左右の角をやや丸めている。
- 前述の平賀図面は残念ながら上構が一切省略されており、艦橋や煙突などは、写真や、後継の「球磨型」の図面からの推測による想像造形。
- 後日、アジ歴に建造当初の「天龍」の艦橋の上側面図があるのを発見、これからスクラッチやキット改造を試みられる方は、これらを併せることでより正確な形状が再現できるかと思う。
- 「天龍」の艦橋については、読者のAKIベエ氏より戦時中の写真の情報を頂き、既存の書籍掲載の図面では描かれていなかった、天蓋上の測距儀や、窓枠の改正、側壁のマントレットの様子が明らかになった。
- 「龍田」の艦橋については決定的資料がないものの、読者の篠崎敏彦氏より「スカイウェーブジャーナル」の記事の情報と既存資料からの考察をお寄せ頂き、それなりに「天龍」との差別化ができたと思う。
- 「天龍型」の識別では、後檣の二段継ぎの有無が有名だが、大戦期には前檣にも識別点がある。
砲熕 (ほうこう) 兵装
目指すは3者の良いとこ取り! 砲身を細くするだけで、タミヤ「阿武隈」のパーツは大きく化ける。
- ピットロード (以下、「PT」) の新武装セットに14cm砲があるから手間いらずだな! と思いきや、まさかの寸法違い。
各社パーツを比較の結果、タミヤ「阿武隈」の砲身を金属化して解決した。 - 上記検証の過程の副産物として、学研の「軽巡 球磨・長良・川内型」では2種類あるけど法則性は不明、くらいのボンヤリ情報だった天蓋の種類に、ある程度の法則性を発見。
- 13mm単装機銃はナノ・ドレッドを使用、礼砲や装填演習砲などの小型の砲関係は、ピットロードの25mm単装機銃から削りだし。
水雷兵装
以前の「樅型」に続き、またも六年式発射管の部品だけ使うので、他の発射管が余る余る (笑)
- 魚雷はPTの新装備品セットの53cm連装をバラして三連化。発射管そのものより、周辺のスキッドビームの形状と工作に難儀した。
- 機雷敷設軌条と爆雷投下台はプラ材から自作。触れるのを忘れていたが爆雷投射機は新PTを使用、田村俊夫氏の考証[1] に従い、「天龍」は片舷投射機×2、「龍田」は片舷投射機×1としている。
短艇
WL大型艦兵装セットのデッサンの秀逸さが際立っている。
- 駆逐艦用とはうって変わって、ここでも新PTはイマイチふるわず。
逆に、駆逐艦では今一つだった静協の内火艇が予想外の良い出来で見直した。
仕上げ
- 「樅型」の完成後、空気遠近法について面白い研究を見つけたので調色ルールを変更。
また、汚しは前作では無彩色で面白みに欠けたので、今回は水垢っぽい演出で無彩色と緑系をランダムに入れてみた。
といった感じで、スクラッチビルドの割には、前作の駆逐艦「樅型」「蔦型」より記事も工期もコンパクトにまとまった。
流石に、2年も手を動かしていれば、昔の勘を取り戻してきたといったところか。
次回は「天龍型」シリーズ最終回、完成写真と参考資料などを紹介して連載を締め括りたい。
できれば、もうじき発売になるモデルアート増刊の「日本海軍 軽巡洋艦 総ざらい」の「天龍型」の取り扱いについても触れてみようと思う。
参考書籍
- 田村 俊夫「日本海軍最初の軽巡『天龍』『龍田』の知られざる兵装変遷」『歴史群像 太平洋戦史シリーズ51 帝国海軍 真実の艦艇史2』学習研究社、2005年、94頁 ^1
全て敬称略。